代表者 : VOGT Kaspar Mnuel
ヒトや動物を用いた、運動と睡眠との関係についての従来の研究から、運動後の深睡眠やδ(デルタ)波(睡眠要求や睡眠の深さに関連する脳波)成分の増加、眠りに入るまでの時間の短縮など、運動は睡眠に良い影響を与えると考えられてきました。しかしながら、研究成果が蓄積するにつれ、運動が良質の睡眠をもたらすという仮説と矛盾する報告も散見されるようになっています。本研究では、運動が睡眠に好影響をおよぼす仕組みについて、標準的な睡眠判定と、深睡眠の安定性を脳波から定量化するエンベロープ(包絡線)に基づいた解析の両方を用いて、初めて調べました。
健常な成人男性を対象に、最大酸素摂取の60%強度の運動を1時間行った場合、その後の睡眠において、主観的な睡眠の質には低下傾向が見られました。しかし、エンベロープ解析で深睡眠を評価したところ、δ波が大幅に増加し、また睡眠初期の深睡眠の安定性が強くなっていました。すなわち、比較的激しい運動は、主観的な睡眠の質は改善しないものの、客観的には、より安定した深い睡眠を誘導することが明らかになりました。また、運動することが、全体的な睡眠時間の短縮と、特に睡眠前半における深睡眠の強化や安定化をもたらすことが確認されました。このことから、運動を行うことにより、質の良い睡眠がとれ、より短時間で効率よく睡眠要求を満たすことができる可能性が示唆されました。