過去15 年間にわたる研究によって,子どもの体力と学力の関係が盛んに研究されてきました.しかしながら,見解は一致しておらず,子どもの体力向上が学力にプラスに作用するのかどうか未だ結論に至っていない状況にあります.この一因を解明するため,本研究では科目の違いに注目しました.その結果,体力向上が学業成績に与えるプラスの効果は,苦手科目に選択的に認められることが明らかになりました.本研究では,469 名の中学生を1 年生時から3 年生時まで2 年間追跡し,体力(全身持久力)と苦手科目・得意科目の学業成績(国語・社会・数学・理科・英語の最低評定値と最高評定値)の変化の関係を調べました.体力以外の学業成績に影響を与える要因であるBMI,社会経済要因(両親の学歴と世帯収入),放課後の勉強時間を同時に調査し,それらの影響を統計学的に取り除いて分析しました.その結果,中学1 年生から中学3 年生にかけて体力が向上すると,苦手科目の学業成績が改善(主要5 教科の最低評定値が向上)することが示されました(図1).一方で,体力の変化は得意科目の学業成績(主要5 教科の最高評定値)の変化には関わっていませんでした.この結果から,体力の向上をもたらすような習慣(運動部活動の練習など)は苦手科目の学業成績に好影響を与え,得意科目の学業成績に悪影響を与えないと推測されます.
今後は,なぜ苦手科目に対してプラスの効果が選択的に認められたのか,その要因を明らかにしていきます.また,このような科目の違いに注目することによって,研究間の矛盾が解消されることが期待されます.
本研究は森田憲輝(北海道教育大学岩見沢校),石原暢(神戸大学),そして紙上敬太(筑波大学=論文投稿時、現中京大学)らの共同研究によって実施されました.論文は「npj Scienceof Learning」誌にて2021 年4 月1 日より公開されています.