別府湾沿岸地域の津波堆積物から過去7300年間の津波履歴を解明

代表者 : 藤野 滋弘  

概要】
信州大学学術研究院理学系(理学部理学科地球学コース)の山田昌樹助教は,筑波大学生命環境系の藤野滋弘准教授,酪農学園大学農食環境学群環境共生学類の千葉 崇助教(研究実施時所属:筑波大学,論文投稿時所属:秋田県立大学),ニューサウスウェールズ大学のCatherine Chagué教授,筑波大学大学院生命環境科学研究科(研究実施時)の竹田大輔との共同研究として別府湾に面する大分県大分市の大圓寺(おおえんじ)湿地においてボーリング掘削調査を実施し,採取した深度8.8 m までの堆積物コア試料を分析することで,別府湾沿岸地域に襲来した過去7300 年間の津波履歴を明らかにしました.別府湾では,1596 年に発生した慶長豊後地震に伴う津波によって沿岸地域に甚大な被害があったことが歴史記録から分かっています.本研究により,大圓寺湿地において津波堆積物*1 が認められたことで,別府湾では過去にも津波が繰り返し発生していたことが明らかになりました.
堆積物コアの大部分は,湿地や内湾で堆積した泥層で構成されていましたが,その中に平面的に連続する砂質のイベント層*2 が5 層認められました.堆積物コア試料に対して,堆積相*3 の観察に加えて,地球化学分析と珪藻分析*4 を実施したことで,これらのイベント層が海水の流入によって形成された可能性が高いことが明らかになりました.別府湾沿岸地域は,歴史記録で分かる範囲では,南海トラフで過去に発生した巨大地震や台風時の嵐によって大規模な浸水被害を受けていないことから,本研究で認められたイベント層は,別府湾の海底活断層で発生した地震による津波堆積物であると結論づけました.5 層のうちの1 層は,約7300 年前の鬼界アカホヤ噴火*5による火山灰層に覆われており,別府湾の海底活断層地震によるものではなく,噴火と同時に発生した津波よって形成されたものであると考えています.これは,この噴火の際に,カルデラの陥没や火砕流の海への流入によって巨大津波が発生した可能性が指摘されていることに基づいています.この1 層を除いた4 層の津波堆積物に対して放射性年代測定を行ったところ,津波の発生年代は,3270〜3450 年前,4250〜4510 年前,4970〜5280 年前,5750〜6750 年前で,これらの発生間隔が460〜1850 年であると推定することができました.本研究成果は,5 月1 日付で,ELSEVIER が発行する英文誌Quaternary Science Reviews に掲載されます.本研究は,文部科学省テニュアトラック普及・定着事業および日本学術振興会科研費
(14J00107)の助成を受けて実施されました.また,原子力規制庁からの委託業務により実施した成果の一部です.なお,本研究は筆頭著者の山田昌樹助教が,筑波大学大学院生命環境科学研究科に提出した博士学位論文の一部です.