時間効率に優れた高強度間欠的トレーニングが記憶力を高める

代表者 : 征矢 英昭  

運動は身心の健康に有益であるにもかかわらず、仕事や家事の忙しさを理由に運動の実施率は低迷しています(2020年、スポーツ庁)。そうした中、短時間でできる効果的な運動として注目されているのが高強度間欠的トレーニング(High-intensity intermittent training; HIIT)です。HIITは高強度運動と休息を組み合わせた間欠的な運動であり、長時間の持続トレーニングと比べ、短時間かつ少ない運動量で持久力などを高めることができる時間効率に優れた運動様式とされます。近年、HIITの効果は脳にも及び、実行機能や記憶力を高めるとする報告が増えて来ました。しかし、その神経分子基盤については明らかになっていませんでした。

本研究では、ヒトの生理応答に準じた動物用運動モデルを確立し、4週間のHIITと中強度の持続的な運動(Moderate-intensity continuous training; MICT)の効果について検証しました。HIITの運動時間はMICT の1/6、運動量(走行距離)は1/2〜1/4程度であるにもかかわらず、持久力の向上や骨格筋の肥大はMICTと同様に起こることを確認しました。この時、HIITトレーニングを課したラットでは記憶課題の成績が向上し、記憶や学習を担う海馬で新しく作られる神経細胞(神経新生)の数やBDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれる神経成長を促すタンパク質が増加することが明らかとなりました。

新型感染症の流行に伴う活動自粛は、身体活動量の低下を助長し、身心の不調を訴える人の増加や作業効率の低下を招くことが想定されます。短時間の運動であっても、海馬の神経可塑性を高め、記憶力を向上させることを明らかにした本研究の成果は、身体不活動という地球規模課題の解決に向けた一助となることが期待されます。