色や形状、香りといった花の特徴の組み合わせは、ある決まったグループの動物に受粉を任せるような進化の結果と考えられてきました。例えば、青いベルを吊るしたような花はハナバチの仲間への専門化によって、白くて甘く香る花はガの仲間への専門化によって生じた、という具合です。しかし、実際の花はさまざまな動物に訪問されており、特定のグループに専門化しているという定説とは矛盾します。本研究では、生態学で25年来続くこの謎を解く鍵となる、新しい仮説を提唱しました。
定説の背後には「トレードオフ」という概念がありました。動物ごとに受粉に適した花の特徴が大きく異なるため、花は特定のグループに専門化するしかないという考え方です。すると、その特徴にマッチしない訪問客(動物)を多く受け入れている花は、効率の低い受粉に甘んじていることになります。しかし、特定の動物に専門化せず多様なグループが集まる花を調べた過去の研究では、定説から期待されるようなトレードオフがほとんど観察されていません。本研究では、この事実をヒントに「多くの花は、トレードオフを緩和し、複数の動物による受粉の効率を同時に高めるような進化を遂げてきたのではないか?」という、これまで見過ごされてきた可能性を指摘しました。
トレードオフの緩和は、複数の特徴の組み合わせによって実現されます。例えば、花粉も蜜も含まなくなった古い花を落とさずに咲かせたままにする植物は、花が多く見えるため、外見で植物を選ぶハナアブを誘引することはできますが、頭の良いハナバチには嫌われてしまいます(トレードオフ)。しかし、古い花の色を変えて若い花を色で選べるようにすれば、ハナバチも訪れてくれるようになります(トレードオフの緩和)。これは、実際に多くの植物で進化した「花色変化」という現象です。今後は、異なる動物への同時適応という視点から、花の特徴のパターンを読み解く研究が必要となります。
本研究の視点は、野生植物の保全においても重要です。なぜなら、ある1種の花が存続するためには、限られたパートナーがいるだけでは不十分ということになるからです。花をまもるためには、多彩な訪問客との関係を保つことが欠かせないのです。