代表者 : 田宮 菜奈子
我が国の歯科医療は国民皆保険により全国一律に提供されています。しかし近年、国民の歯科疾患について、地域間や社会経済学的な要因による健康格差の存在が報告されるようになりました。また、口腔の健康維持は全身疾患の予防とも関連するとされています。健康日本21(第2次)の目標である健康格差の解消は、歯科口腔保健においても重要です。
格差の解消に向けた施策を検討するには、国民の歯科疾患罹患や歯科医療供給に関する実態把握が欠かせません。このため本研究では、厚生労働省が公開している電子レセプトの匿名化情報「NDBオープンデータ」を用いて全国の歯科医療受診状況を比較するとともに、地域の医療供給・社会経済的要因との関連について分析しました。
歯科医療利用の全国(都道府県)差は、外来受診では最大1.4倍、緊急性の高い治療や義歯の作成など咬合回復治療でも最大2倍未満にとどまり、比較的小さいことが示されました。一方、歯周病治療や訪問診療では全国差が一定程度存在する可能性が示されました。また、歯科医療利用と地域の所得や教育水準との関連が認められました。
過去の研究からも、歯科治療の受診は地域及び個人の社会経済的要因の影響が他の診療科に比べ大きいことが指摘されています。今後は、さらに詳細な地域単位や個人レベルで、歯科医療利用と地域・社会経済的要因との関連を調査し、受診の障害となっている要因を検討することが求められます。加えて、歯科健診結果の利用など国民の口腔疾患の実態分析を可能とする情報収集手段の構築が期待されます。
歯科医療に関する多面的な情報を収集検討することにより、高齢化が一層進んでいく社会に対応する歯科医療体制の整備が推進されることが望まれます。