18歳、選挙に行こう! みんなで社会を作ろう!
何を手がかりに投票すればいい? ~『イデオロギー』を図書委員で読んでみた。開成中学・高校図書委員会、政治学者と語る
竹中佳彦先生 筑波大学人文社会系(社会・国際学群 社会学類 政治学主専攻、大学院人文社会科学研究科 国際公共政策専攻)
学問の本について、その著者(オーサー)と気軽に語らう。そのために、著者である大学の先生が高校に訪ねてくる(ビジット)。第1回は、7月10日の参議院選挙には、高校生も有権者として初めて参加できるので、政治学の本を取り上げてみました。
訪問を希望したのは、開成中学・高校の図書委員会。実は彼らは理系進学を考えているのですが、文系の本を読んでみたいと、竹中先生の訪問を求めてきました。
晴れた土曜日の午後。迎えていただいたのは、中学校の図書室でした。
<参加者>
開成中学・高校図書委員会6名 遠藤達朗くん(高2)、東山晋承くん(高2)、野村優くん(高1)、加藤辰明くん(高1)、坂谷竜聖くん(中3)、青山龍平くん(中3)(2015年11月時点)
対象となった本は『イデオロギー』(東京大学出版会)。蒲島郁夫先生・竹中佳彦先生の共著です。蒲島先生は、4月に大地震に遭遇し、災害からの復興に奔走中の熊本県知事。今回、オーサービジットに登場の竹中先生は、蒲島先生の教え子にして、現在、筑波大学人文社会系で政治学・日本政治論を研究する政治学者です。
オーサーとの対話でわかったのは、政治学は、いよいよ選挙にも参加できる高校生が市民になるための必須科目であり、そこには、「究極の実用的な学問」(竹中先生)とも呼べる世界がある、ということでした。
※昨年2015年度の学問本オーサービジットの案内はこちら
第1回 そもそも政治学って何? ~中学校のテニス部にも政治がある
まず、先生による講義から。内容は、「政治とは? 政治学とは?そして政治過程論とは?と続きました。
私たちの本は『イデオロギー』というタイトルですが、思想より図表や数式がたくさん出てくることに驚いた人も多いでしょう。私たちは、イデオロギーという概念に注目し、そこを切り口として、世論調査のデータを用い、実際の政治をめぐる有権者の行動や意識を計量分析しています。分析によって、わけがわからないように見える政治の世界がよく理解できます。
ところで政治って何でしょう? 政治を表す英語には、「ガバメント」と「ポリティクス」があります。「ガバメント」は、「船の舵をとる」というラテン語から派生し、統治や支配という側面を象徴しています。「ポリティクス」は、古代ギリシャのポリスに由来します。「都市を治める」という意味の言葉が語源です。ポリスでは、市民権を持った人々が自治を行っていました。政治とは、統治であれ、自治であれ、考えや利害を異にする人を統合していくことです。
たくさんのテニス部員のいる中学校にテニス・コートが1面しかないとしたら、練習できる人の数は限られます。部員全員がコートを使って練習できるように話し合いをして秩序ができれば、テニス部の自治はうまくいっています。しかし特定の部員が、他の部員の使うべきときにコートを使い続けていたら、自治は崩壊します。上級生や顧問の先生がルールを定め、みんなを従わせることで、秩序が回復するかもしれません。これは、一種の統治ですね。このように政治とは、人間集団の相互作用から生じると言えます。
よく「政治学って政治評論家みたいなことをするんですか?」と聞かれることがあります。たしかに政治評論のようなことをする場合もありますが、政治学の本当の役割は、評論や予測ではなく、政治現象の分析です。
その中でも特に私の専門の政治意識や投票行動の研究は、政治学の一分野である「政治過程論」の中に位置づけられます。政治過程とは、国民や圧力団体が政治に対して自分たちの利益を表明し、それらを政党が政策案として集約し、政治家や官僚などが中心になって政策を決定し、執行されていく一連の流れで、投票行動は、国民が自分たちの利益を政治家に伝える重要な役割を持っています。イデオロギーは、有権者の投票行動を規定する要因の一つです。
政治の現状を分析し、政策のあり方を考え、どう投票すべきかを教えてくれる政治学が、とても役に立つ実用的な学問でもあるということを説明していきましょう。