2021 年 6 ⽉ 29 ⽇(⽕)
国⽴研究開発法⼈国⽴環境研究所
国⽴⼤学法⼈東京⼤学
国⽴⼤学法⼈筑波⼤学
国⽴環境研究所、東京⼤学、筑波⼤学の研究チームは、気候モデルによる地球温暖化
予測において、亜熱帯海上の雲量減少に伴う温暖化の加速効果が⼗分に働いていないことを⽰しました。
亜熱帯海洋上には、⼤気が上下に混ざりにくい安定層があり、下層に背の低い雲(下層雲)が⽣成されています。下層雲は、太陽光を反射して地球を冷却しています。また、下
層雲は温暖化の進⾏に伴い減少すると考えられています。そうすると、雲による冷却効果は弱くなり、温暖化は加速します(正の雲フィードバック)。しかし、多くの気候モデルには、現在の下層雲量が観測に⽐べて少なくなる誤差(現在の下層雲量の過少バイアス)があり、将来予測においてこの正の雲フィードバックが働きにくいことがわかりました。この「現在の下層雲量の過少バイアス」は、地表付近で温められた空気が上昇して⼤気を混合する対流プロセスが、モデルでは活発過ぎて、下層雲の形成に必要な安定層の発達が妨げられていることが原因として考えられます。雲フィードバックと対流活動度との関係から、雲フィードバックの確からしい値を0.5~3.4Wm-2℃-1 と推定しました。これは、温暖化予測に関わる雲フィードバックの不確かさを、⽇々の対流の活動度との関係から、世界で初めて低減した成果になります。地球温暖化予測を精確に⾏う
ためには、雲・対流プロセスの理解を深め、モデルを⾼度化していく必要があります。
本研究の成果は、2021 年6 ⽉29 ⽇付で⾃然科学分野の学術誌「Environmental Research Letters」に掲載されました。
気候モデル※ 1 による地球温暖化予測には不確かさがあり、温暖化対策に関わる判断を困難にしています。将来の気温変化予測の不確かさの最⼤の要因は、亜熱帯海洋上の背の低い雲(下層雲)の振る舞いがモデルごとに異なることにあることが知られています[1]。亜熱帯海上では、⾼度2km 付近に上層が暖かく下層が冷たい、⼤気が上下に混ざりにくい安定な層が形成されます。この安定層付近には、⽔蒸気が凝結して下層雲が形成されています。この下層雲は広く広がり、太
陽光を効果的に反射して地球を冷却しています。この下層雲が温暖化の進⾏に伴い減少すると、その冷却効果が弱くなるため、温暖化は加速します(正の雲フィードバック)。また、温暖化予測の不確かさは、地表付近で温められた空気が上昇し
て⼤気を混合する対流プロセスの計算⽅法に強く依存することが知られています[2]。⽇々の対流活動による⼤気の混合は、安定層の形成を妨げて、下層雲の振る舞いにも影響すると考えられます。しかし、対流が雲フィードバックに影響する仕組みは、まだ⼗分に理解されていません。
2.研究の⽬的
本研究は、気候モデルによる地球温暖化予測において、対流が、雲減少による温暖化の加速効果(雲フィードバック)に影響する仕組みを調べます。その理解に基づいて、雲フィードバックの不確かさを理解し、低減することを⽬指します。
⽇々の対流活動と雲フィードバックの関係性の物理的な理解に基づいて、雲フィードバックの不確かさを低減することは、世界的にも新しい試みです。
3.研究⼿法
世界各国の研究機関で開発されている65 個の気候モデルによる実験データ(CMIP)、及び観測データの解析を⾏います。モデルの雲フィードバック、下層雲に関わる安定層、および対流活動について調べるために下記の指標を利⽤します。
雲フィードバック: 温暖化に伴う雲の増減によって、雲による地球の冷却効果がどの程度変化するか(W m-2 ℃-1)。この値が正に⼤きいほど雲は温暖化を加速します。
安定層強度: 安定層の上層と下層の温度差(℃)。安定層強度の⼤きさが、下層雲量の多寡を決めていることが知られています。
対流活動度: ⽇降⽔量が5mm より⼤きい⽇の頻度(%)。対流は降⽔を伴うので、降⽔⽇の頻度が⾼いほど、対流活動が活発だと考えられます。
特に安定層強度が3℃より⼤きく、下層雲が卓越する亜熱帯海上における雲フィードバックに着⽬します。
4.研究結果と考察
まず、亜熱帯海上で安定層強度が3℃以上の地域における、CMIP 気候モデルの対流活動度と雲フィードバックの関係を図1 にプロットします。相関係数は-0.59で、対流活動度が⼩さいモデルほど、雲フィードバックが⼤きく、地球温暖化が
加速される傾向があることが分かります。横軸の対流活動度を衛星観測から⾒積もると2.2%程度になります。つまり、ほとんどの気候モデルには、この地域の⽇々の対流が観測に⽐べて活発すぎる誤差(バイアス)があることがわかります。
図1 のモデル間の対流と雲フィードバックの関係性及び観測の対流活動度を利⽤すると、雲フィードバックの確からしい値は0.5~3.4W m-2 ℃-1 だと推定することができます(図1 ピンク線)。この幅は、全CMIP モデルの雲フィードバックの
幅-2.0~4.9W m-2 ℃-1 より⼩さいので、この結果は雲フィードバックの不確かさを低減することに繋がります。雲フィードバックが⼩さいモデルは、対流活動度が観測と整合的でないモデルであり、雲による温暖化の加速効果の働き⽅の信頼性も低いと考えられます。
5.今後の展望
本研究の結果から、CMIP 気候モデルによる地球温暖化予測において、亜熱帯海洋上の雲減少による温暖化の加速効果が働きにくくなっていると考えられます。
このことには、モデルの対流活動のバイアスが関わっていることがわかりました。雲・対流プロセスはモデルによる表現が難しいことが知られています。その理解を深め、より適切にモデル化することが、より精確な温暖化予測に繋がると考えられます。
6.注釈
※1︓気候モデルとは、⼤気海洋などの気候を物理法則に従ってコンピューターでシミュレーションするための仮想的な地球のことです。
7.研究助成
本研究は、⽂部科学省「統合的気候モデル⾼度化研究プログラム」(JPMXD0717935457)、⽇本学術振興会科研費(20K04067)、環境再⽣保全機構環境研究総合推進費(JPMEERF20192004)の⽀援を受けて実施されました。
8.発表論⽂
【タイトル】Underestimated marine stratocumulus cloud feedback associated with overly active deep convection in models
【著者】Nagio Hirota1, Tomoo Ogura1, Hideo Shiogama1, Peter Caldwell4 ,Masahiro Watanabe2 , Youichi Kamae3(釜江陽⼀), and Kentaroh Suzuki2
【所属】1国⽴環境研究所地球システム領域
2東京⼤学⼤気海洋研究所気候システム研究系
3筑波⼤学⽣命環境系
4ローレンス・リバモア国⽴研究所
【雑誌】Environmental Research Letters
【DOI】https://doi.org/10.1088/1748-9326/abfb9e
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