2021.07.30
運動中には筋肉で熱が産生されます。それにもかかわらず、寒い環境や冷たい水の中で運動をしていると、低体温症に陥ることがあります。なぜでしょうか。
私たちヒトは寒さを感じると、「上着を着る」「体を震わす」など体温の低下を防ぐ行動を取ります。そのためには、身体各部からの温度情報を基に、寒さを感じることが重要になります。これまで、皮膚の温度感覚は運動によって鈍くなることが知られていますが、運動中に体温が低下する場合に、皮膚や全身の温度感覚がどのように変化するかについては明らかになっていませんでした。そこで本研究では、運動中でも低体温症が生じるメカニズムを明らかにするため、体温が低下した場合の温度感覚の特徴と運動との関係について検討しました。
冷たい水の中に体を入れると、体の深部の温度が徐々に低下します。実験では、このような状況で安静を維持する場合と、低強度の運動をする場合の二つの状態について、皮膚と全身の温度感覚を測定しました。その結果、特に体の深部の温度が大きく低下した際の全身の温度感覚は、低強度の運動をしている場合の方が安静を維持している場合よりも鈍くなることが分かりました。
つまり、運動をしていると、体温が低下しても、”寒い”という感覚を感じにくくなるのです。これにより、低水温の海や川での水泳や冬季のスポーツ、雪山でのハイキングなどでは、体温の低下に気付かず、低体温症に陥ってしまう可能性が考えられます。このような状況を防ぐためには、事前に体温を十分に高めておくことや、寒さを感じる前に上着を着用し体温の低下を防ぐことが重要であることが示唆されます。
筑波大学 体育系
西保 岳 教授
新潟医療福祉大学 健康科学部 健康スポーツ学科
藤本 知臣 講師