植物球根がヒト病原真菌の薬剤耐性を 多様化させる温床になっている可能性を確認

代表者 : 萩原 大祐  

肺感染症を引き起こす真菌アスペルギルス・フミガタスは、治療が遅れると命に関わる病原性の強い病原菌です。近年、この治療に用いられるアゾール系抗真菌薬に対して耐性を示す株が多数報告されており、その広がりが注視されています。アゾール系の抗菌剤は、医療用だけでなく農薬や木材の防腐剤にも使用されていることから、本菌のアゾール薬耐性株が農業現場、特に、オランダで生産された植物球根から発見された報告例が複数あり、このような薬剤耐性株が、球根の輸出入により国境を超えている可能性が指摘されています。

 

 本研究では、日本で販売されているオランダ産チューリップ球根から分離した、8株のアスペルギルス・フミガタスのゲノム解析を行いました。特定の遺伝子配列やSNP(一塩基多型)データを用いて株間の遺伝的な関係性を解析すると、同一の球根から分離したものであっても、アゾール薬耐性に関わる遺伝子において多様な変異パターンが確認されました。その一方で、染色体ゲノムの配列が部分的に重複しており、ミトコンドリアゲノム配列にも共通性が見られたことから、これらの菌株間で交配のようなゲノムの組換えが生じたと考えられます。このことは、植物球根が、病原真菌にとってゲノムの多様性を獲得する場として機能している可能性を意味します。

 

 治療が困難なアスペルギルス・フミガタスのアゾール薬耐性株が世界中に伝播する状況に加え、遺伝子の交換や融合などでより強力な薬剤耐性株が次々と出現することは、公衆衛生上の大きな脅威です。植物球根がこれらに関与している可能性が示されたことから、今後はより詳細な実態調査と対策が必要になると考えられます。