ハダニの生殖隔離にはどれくらいの遺伝距離が必要か〜半倍数体における種分化研究のモデルとして〜

代表者 : 佐藤 幸恵  

2021.09.23

生殖隔離の発達とは、それまで交雑可能であった生物集団の間で雑種ができなくなることを指し、種分化を理解する上で重要な機構です。これまでは、ショウジョウバエなど人間同様に雌雄とも2セットのゲノムをもつ二倍体生物を中心に研究が進められてきました。しかし、その重要な機構を理解するためには、遺伝様式や生態の異なるさまざまな分類群を対象とした研究も必要です。 そこで本研究では、アリ類やハチ類と同様に雌は2セット、雄は1セットのゲノムを持つ半倍数体生物のオウトウハダニを対象に、集団間の生殖隔離の強さと、遺伝的分化の度合いを表す遺伝距離の関係を調べました。半倍数体生物は最も種数が多い分類群とされる節足動物の約15%を占めます。

 

 世界7カ国から集めた集団間で交配実験を行った結果、卵と精子が受精する前や、受精後においても雑種の発育や妊性において障害があるなど、さまざまな段階で生殖隔離がみられました。また、ミトコンドリア遺伝子の変異度合いを調べた結果、集団間の遺伝距離が大きいほど生殖隔離が強くなるという傾向がみられました。これは、「遺伝的変異が蓄積された結果、生殖隔離が発達する」という、これまでの主流の見解を支持する結果です。

 

 また、本研究とススキスゴモリハダニ種群を対象とした先行研究により、ハダニ類において雑種がほぼできなくなるのに必要な遺伝距離は、0.15-0.21(ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子)であると推定されました。一方、同じ遺伝距離であっても生殖隔離の強さが異なり、集団間の地理的関係から不適応な雑種がつくられないように受精前の段階の生殖隔離が強化されている可能性が示唆されました。さらに、同じ集団間であってもどちらの集団を雌にするかにより生殖隔離の強さが異なることから、母親から引き継がれる細胞質と両親から受け継ぐ核の間の相互作用も、ハダニ類の生殖隔離に強く作用している可能性が示唆されました。

 

 これらの発見により、半倍数体における種分化研究がますます発展していくと期待されます。