代表者 : 末益 崇
2021.10.07
磁石にはN極とS極がありますが、ミクロな視点では、磁石のN極S極の向きがそろった磁区と呼ばれる領域と、隣り合う磁区との境界である磁壁が存在しています。AIやビックデータの発展に伴い、大容量で低消費電力のメモリーが大量に必要になりますが、磁区の磁石の向きを情報の0と1に対応させることで、情報を記録することができることから、1μm以下の細い線状構造の磁石に電流を流して磁壁を高速で移動させ、0と1を読み書きする究極の情報記録素子(レーストラックメモリー)が注目を集めています。
電流による磁壁の高速移動は、GdFeCo等のフェリ磁性体ですでに実現されていますが、動作温度がマイナス30℃程度と低く、磁壁の移動を補助するために外部磁場が必要である上、レアアースであるGd(ガドリニウム)を使わなくてはなりません。本研究グループは2019年に、レアアースを全く含まないフェリ磁性体Mn4N(窒化マンガン)をベースとして、室温かつ外部磁場がない状態で、0.9km/sという磁壁の移動速度を得ています。今回、Mn4Nに微量のニッケルを添加することで、磁化を限りなくゼロに近づける磁化補償を行い、室温かつ外部磁場の補助がない状態で、3km/sの磁壁移動速度を達成しました。これは、室温で得られた磁壁移動として、あらゆる磁性材料の中で最大の値です。
磁石の磁化の方向を電流で高速に制御することは、メモリーへの応用に限らず、スピントロ二クスの基盤となる技術であり、今後、さまざまな分野での応用が期待されます。