代表者 : 小林 悟
2021.11.02
有性生殖を行う生物には、メスとオスの二つの性があり、それぞれ生殖細胞である卵と精子をつくります。ショウジョウバエでは、始原生殖細胞(生殖細胞のもとになる細胞)の性は、受精した卵(胚)の発生過程で決まり、卵や精子への性分化を開始します。しかし、始原生殖細胞の性が決まり性分化する機構の詳細は未だ明らかにはなっていません。本研究グループは、これを明らかにするために、メスとオスの始原生殖細胞の間で差異を示す現象の探索を行ってきました。
その結果、ショウジョウバエの始原生殖細胞が、卵や精子への性分化を開始する時期(孵化間近の後期胚)において、①蛍光タンパク質を発現させると、発現したタンパク質の量がメスに比べてオスの始原生殖細胞で高くなること、②メスと比較してオスの始原生殖細胞で発現量が多い遺伝子には、翻訳活性の制御に関わる遺伝子が多く含まれること、③メスと比較してオスの始原生殖細胞でタンパク質の合成活性が高いこと、を見いだしました。これらのことから、性分化を開始している始原生殖細胞において、タンパク質合成活性、すなわちメッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳活性が、メスに比べてオスの始原生殖細胞で高いことが明らかになりました。この翻訳活性の差異により、始原生殖細胞において発現する遺伝子に差異が生じ、異なる性分化が引き起こされると考えられます。
タンパク質を合成する活性がメスとオスの始原生殖細胞で異なるという報告はこれまでになく、本研究成果は、性分化機構を明らかにする上で重要な発見です。