2021.11.18
熱ネルギーを直接、電気エネルギーに変えることができる材料が熱電変換材料です。発電や機器の利用に伴って生じる熱の多くが現在、未使用のまま環境中に排出されています。熱電変換を利用すれば、こうした排熱の有効活用やエネルギー効率の向上につながり、環境対策にも貢献します。
熱電変換材料の性能を向上させる鍵の一つが、材料の熱伝導率を低くすることです。材料の両端の温度差が大きいほど、熱電変換で生じる電力を得やすいからです。そして、材料中の元素(原子)が乱雑で無秩序な配列(ディスオーダー)になっていると、熱伝導率は下がることが知られています。ディスオーダーに分類される材料中の空隙や液体のように流れる原子などの様子は、多種の元素で構成される複雑な結晶構造ではよく見られますが、構成元素数が少ない単純な結晶性固体では、ほとんど観測されていませんでした。
本研究では、放射光X線回折に理論計算などを組み合わせた観測で、単純な構造を持つ熱電変換材料であるテルル化インジウム(InTe)中のIn原子が、一次元的な鎖状のディスオーダー構造を形成することを発見しました。また、このIn原子鎖のディスオーダー構造は、温度の上昇に伴い、一カ所に止まっている状態から結晶内を液体のように流れる状態へと変化(静的-動的転移)し、結晶構造のc軸が原子の拡散経路を形成することも観測されました。理論的考察から、経路の形成はInイオンが結晶軸に沿って移動しても物質全体のエネルギー変化が小さいことに起因することが分かりました。
InTeは、熱伝導率が極端に低いことから熱電変換材料として最近期待されているセレン化タンタル(TlSe)型の結晶構造を持っています。理論計算による検討から、観測されたディスオーダー構造は、TlSe型の熱電変換材料の一般的な特徴であることも分かりました。
本研究は、TlSe型の物質の熱伝導率が非常に低く、その温度依存性が弱いのはなぜかを理解する基盤を提供し、排熱の電気変換へ向けた研究に貢献することが期待されます。