代表者 : 大津 厳生
2021.11.29
宇宙飛行は、生き物の体にさまざまな不具合を発生させます。無重力環境や高線量な宇宙放射線の影響だと考えられています。特に肝機能については、いくつかの障害が起きることが分かっており、マウスでは、肝臓の線維化や非アルコール性脂肪肝が引き起こされることが知られていました。
本研究では、独自に開発した解析手法「サルファーインデックス解析」を用い、宇宙飛行したマウスの肝臓内の硫黄化合物の状態を網羅的に調べました。硫黄化合物は生体内の酸化還元反応の中心を担う存在で、硫黄化合物の状態が分かれば、体内の酸化還元状態を把握することができます。
この解析により、宇宙に行ったマウスの肝臓内では、システイン、エルゴチオネイン、グルタチオンなど還元的な硫黄化合物の量が減少していることが分かりました。これらの還元的な硫黄化合物は生体内の抗酸化に貢献していることが知られています。宇宙飛行中に発生した、体に対する酸化的なダメージを緩和するために消費され、その存在量が減ってしまったと考えられます。
また、この時の肝臓の遺伝子発現についても調べました。宇宙飛行したマウスの肝臓では、酸化ストレスに関連する遺伝子や、硫黄化合物の代謝に関わる遺伝子の発現量が増加していました。これは、宇宙飛行によって減少した還元的な硫黄化合物を再供給するために、それらを合成する酵素などを増やそうとしたものだと考えられます。
本研究成果は、宇宙での活動が活発化する近未来に向けて、人類が宇宙で健康的に活動するための重要な手掛かりとなることが期待されます。