バイオマス資源活用赤外光を通す新素材開発

代表者 : 桑原 純平  

持続可能な生産が可能で、環境への負荷が少ないバイオマス材料として注目されているのが藻類オイルだ。桑原純平准教授、神原貴樹教授(数物系)らの研究チームは、藻類オイルと植物由来の精油成分、石油の精製過程などで生じる余剰資源のイオウから、赤外光を通し、ゴムのような弾力性を持つ高分子材料= =を開発した。加工が容易で安価な赤外光レンズの開発につながると期待されている。 ある種の藻類は光合成で脂質を作り出す。その脂質を取り出し、精製したものが藻類オイルだ。藻類は光合成の際に大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収するので、化石燃料の代わりに利用すれば、地球温暖化対策にも貢献する。 藻類を増殖させつつ利用すれば、化石燃料と違い枯渇の心配もない。一方で、燃料以外の利用法が課題とされていた。 筑波大は5年前、藻類オイルの産業応用などを目指す「藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター(ABES)」を設立。桑原准教授らはこれを機に、藻類オイルを活用した材料や製品の研究開発に取り組んだ。 近年、赤外光用レンズは、防犯用の暗視カメラや食品の異物混入の検査装置など幅広い場面で使用される。需要は大きいが、従来の材料は加工が難しく、価格も高かった。 桑原准教授らは、国立研究開発法人産業技術総合研究所の福田隆史博士と共同で、赤外光を通しやすい余剰物質の硫黄と藻類オイルを活用した赤外光レンズの開発を目指した。生ゴムに硫黄を加えると、弾性が増すことが知られている。 だが、出来上がった素材は、期待したような弾性は発現しなかった。そこで、考え出したのが植物由来の精油成分テルペンの利用だった。 藻類オイル、硫黄、テルペンの混合比率や反応温度を調整することで、赤外光の透過率が高く、ゴムのような弾性を持つ素材の作成に成功した。 三種類の材料を混合して加熱するだけというシンプルな工程で製造でき、触媒も溶媒も必要ないため、原料と製造方法の両面から環境負荷の低い技術だという。 レンズに応用する場合は、弾力性がある素材のため、伸縮させるだけで簡単に焦点距離を変えることができる。複雑な駆動機構が不要となるため、カメラの製造コスト削減が期待できる。 固まる前の材料を鋳型に入れ、加熱するだけで望みの形に成形できる加工の容易さも魅力だ。 研究チームは今後、レンズの赤外光透過率をさらに向上させ、レンズの実用化を目指す。 桑原准教授は「筑波大が培った、バイオマス原料と硫黄の混合に関する研究成果を生かし、藻類の新たな活用法を追求したい」と話した。