地球上で最も多くのヒトを殺す生物は、蚊です。現在、マラリアやデング熱など、蚊が媒介する重篤な感染症による死者は、世界中で年間70万人にも上ります。これらの感染症に対する防衛策として、蚊を殺したり、あるいは蚊の成長を阻害する薬剤の使用は欠かせません。しかしながら、既存の殺蚊剤に対して抵抗性を示す蚊の出現が確認されています。そのため、単一の薬剤に過剰に頼るのではなく、作用機序の異なる複数の薬剤をローテーションして使用することで、薬剤抵抗性の出現を回避する戦略が不可欠です。
害虫に対する高い殺虫能や成長阻害能を示しながら、昆虫以外の生物に対する作用がない薬剤として、昆虫特有の生命現象を撹乱する「昆虫成長制御剤」があります。その一つとして、昆虫の脱皮と変態を司る昆虫ステロイドホルモン「エクジステロイド」の働きを撹乱する薬剤が注目されています。
本研究チームは、エクジステロイド生合成に必要な酵素「Noppera-bo」に焦点を当て、デング熱、黄熱、ジカウイルス感染症を媒介するネッタイシマカ由来のNoppera-boの活性を阻害する薬剤を探索しました。その結果、植物の二次代謝物としてよく知られるフラボノイド化合物であるデスメチルグリシテインが極めて有効であることを発見し、さらにX線結晶構造解析によって分子レベルでの作用機序の解明に成功しました。加えて、デスメチルグリシテインが、ネッタイシマカ幼虫の発育を阻害することも見いだしました。
今回の研究成果により、環境負荷が少なく効果の高い殺蚊剤の開発が期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター
丹羽 隆介 教授
東京薬科大学 生命科学部
藤川 雄太 助教
理化学研究所 生命機能科学研究センター 制御分子設計研究チーム
本間 光貴 チームリーダー