代表者 : 蓑田 歩
バイオソープション(生物吸着)は、微生物や生体物質が金属イオンなどを吸着・保持する現象です。生物学、農学、環境科学分野において古くから研究され、排水・下水処理のための活性汚泥など実社会で利用される技術にも広く応用されています。
これまで金属のバイオソープションに関する研究では、細胞が吸着する金属量はバルク解析と言われる、多くの細胞の平均値を求める方法で決定されてきました。これは、「全ての細胞で等しく生物吸着が起きている」ことを前提とした手法です。
本研究チームは今回、強酸性条件でも貴金属を吸着可能な単細胞性紅藻Galdieria sulphurariaを実験対象とし、一つ一つの細胞が吸着した貴金属量(金、白金、パラジウム)を直接測定するシングルセル解析を行いました。その結果、反応条件によって1細胞あたりの貴金属吸着量は異なることを見出しました。さらに、細胞が貴金属を吸着する仕組みを調べたところ、吸着する金属種とGaldieriaを入れた反応溶液の違いによって貴金属と細胞表層の相互作用が変化し、1細胞あたりの貴金属吸着量も変わることが明らかになりました。
これらの結果は、「均一に培養した細胞でも細胞表層の構造は不均一で、吸着する金属量には差があり、反応条件によって金属を吸着する細胞集団は変化する」ことを示します。
本研究では、溶液中の酸濃度の上昇に伴って、貴金属が細胞表層の官能基とより安定な結合を形成することで選択的に吸着される仕組みも明らかになりました。本研究成果は、バイオソープションについての理解を深めるとともに、生物由来の環境に優しい効率的な金属吸着剤の開発につながると期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学生命環境系
蓑田 歩 助教