東京電力福島第一原発事故は、近隣の大規模集水域に長期的な放射能汚染を引き起こしました。その後、政府主導の農地除染により放射性セシウム(137Cs)で汚染された土壌が除去され、除染地域の放射線リスクは低減しました。しかし、除染が下流域に及ぼす長期的な影響は不明のままでした。
本研究では、広範囲に農地除染が行われた福島県の新田川流域を対象に、2013~2018年までの間に除染が下流域に及ぼした影響を初めて評価しました。評価は、政府の除染データ、高解像度衛星画像を用いた土地被覆変化のデータ、河川のモニタリングデータを組み合わせて行いました。
その結果、除染期間中(2013-2016年)は除染地域で土壌の侵食量が増え、下流への浮遊土砂の流出量がそれ以前の2倍程度になったことが分かりました。一方、除染の進展に伴い、泥や砂に付着した137Cs(懸濁態137Cs)の濃度は大幅に低下しました。除染によって、河川に流入する土壌の137Cs濃度が下がったためと考えられました。浮遊土砂の下流への流出増も、1~2年程度で収まりました。除染地域は降水量が多く、植生の自然回復が速やかに進んだためとみられます。土砂流出増が懸濁態137Cs濃度の低下によって相殺されたため、海洋へ流出する137Csの総量には、除染による大幅な増加や減少は認めらませんでした。
放射能汚染に限らず、土地改変による環境修復が必要となった地域においては、土地改変後の植生の自然回復条件の事前評価や、流域の規制枠組みに対応した緑化対策を準備しておくことが求められます。本研究成果は、長期に及ぶ除染活動が、下流域の持続可能性(Sustainability)に与える影響を最小化することに役立つと期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学生命環境系/アイソトープ環境動態研究センター(CRIED)
恩田 裕一 教授
福島大学環境放射能研究所
脇山 義史 准教授
津山工業高等専門学校総合理工学科
谷口 圭輔 講師