代表者 : 上野 健一
夜間の気温逆転(NTI)は山岳域の局地気候を特徴づける重要な因子です。中部日本におけるほとんどの山岳斜面は森林で覆われていますが、森林の開葉・落葉が山間部の盆地内で生じるNTIに及ぼす影響は解明されていません。
本研究では、長野県菅平高原の標高1320mに位置する混交林で、3年間にわたり葉面積指数(LAI)を観測し、菅平盆地で夜間に形成される冷気湖(冷気が盆地や谷間に滞留している状態)に伴うNTI強度と比較したところ、盆地内のNTIは、開葉に伴い弱化し、落葉に伴い強化することが明らかとなりました。また、数値標高・土地利用データを用いて、夜間冷気流が生じる流域内の落葉・混交林の分布を特定し、有効積算気温に基づいて推定した開葉・落葉時期は、NTIが変化する時期とほぼ一致しました。微気象(地表付近の大気現象)観測によると、森林内での地表面付近のNTIと近隣草原での斜面下降風は、放射冷却が卓越した落葉期夜間に強化しました。さらに、冷気湖の発達に必要な大気からの熱量損失を試算し、冷気を涵養する流域内の単位森林面積当たりの熱フラックスに換算したところ、従来の陸面熱収支研究で明らかにされてきた森林の貯熱フラックスを下回ることが分かりました。つまり、森林の開葉・落葉に伴う貯熱量変化は、冷気湖の発達・衰退を生じるのに十分であることが、簡易的な熱量計算により示されました。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学生命環境系
上野 健一 准教授