軽運動で統合失調症を予防 発症のメカニズム解明に期待

代表者 : 征矢 英昭  

統合失調症は精神疾患の一つだ。征矢英昭教授(体育系)らの研究チームは、モデルマウスを使った実験から、発育期に軽い運動をさせると、統合失調症に特徴的な行動異常の発症を抑制できることを突き止めた。統合失調症の発症予防につながる運動療法の開発や、統合失調症の発症メカニズムの解明につながる成果だ。 統合失調症を発症すると、幻覚や幻聴、極度の興奮などの行動異常、認知機能の低下などが起きる。詳しいメカニズムは不明だが、出産前後に生じた神経の発達障害に、思春期以降のストレスなどが加わって発症すると考えられている。 また、統合失調症の患者やモデル動物は、脳の認知機能を司る前頭前皮質の機能が低下していることが知られている。 征矢教授らは、ヨガやジョギングなどの軽い運動でも前頭前皮質の機能が高まることを確認しており、統合失調症の予防にも有効だと考えた。 今回の研究では、PCPと呼ばれる薬物を妊娠中のマウスに投与し、モデルマウスを作成した。生まれてきたマウスは、脳神経の発達が障害され、統合失調症に似た行動異常を起こす。 征矢教授らは、ヒトの発育期に相当する生後4~8週目のマウスに、分速10mのトレッドミル走= =を週に5回(1回30分)課し、これを4週間続けた。これはヒトの軽運動に相当する。 薬物投与マウスはPCPに対して著しく反応し行動量が異常に増加するが、この軽運動を課したマウスでは、行動量の増加が起きなかった。 マウスを円柱状の水槽で泳がせると、逃げ出そうとして激しく泳ぐが、やがて抵抗せずに水に浮かぶようになる。薬物投与マウスは意欲が低下し、浮かぶだけの時間が健康なマウスより増えるが、軽運動を課したマウスはそうならなかった。 健常なマウスは新しい物体を見ると、探索行動が増える。薬物投与マウスではこの増加が見られず、認知機能障害が発生していると推測される。しかし、軽運動を課したマウスは、健康なマウスと同様に新しい物体への探索行動が増加した。 これらの結果から、発育期に軽運動を課したモデルマウスでは、行動異常がほぼ完璧に抑制されることが分かった。 征矢教授らは、薬物投与で生じたマウスの脳の神経系の異常が、軽運動により実際に改善されたかも検証した。 その結果、神経細胞内で情報を伝達するタンパク質の一種の働きが、軽運動で正常化されることが分かった。このタンパク質の活性化には、前頭前皮質で重要な役割を果たすドーパミンが関係するとの報告があることから、軽運動がドーパミン系を活性化し、認知機能を改善している可能性が示されたという。 征矢教授は「軽運動の前頭前皮質に対する効果やそのメカニズムを解明する端緒を開けた。統合失調症の治療薬の開発にもつながるだろう」と話している。(天野隼太=比較文化学類1年) トレッドミル走=ランニングマシンを使用してマウスを走らせる運動方法。