地震波形から地滑りを検出 発生源をリアルタイムで特定

代表者 : 奥脇 亮  

地震がなくても、地球は常に揺れ動いている。大気や海洋の動きに呼応した揺れの他、氷河の崩壊や地滑りなどさまざまな原因がある。地震計はこれらの揺れも記録しているのだが、普通の地震に比べるとそのシグナルが微弱な場合が多く、ノイズとして埋もれてしまいがちだった。 奥脇亮助教(生環系)を中心とした国際研究チームは、地震計が計測する地震波形データから、地滑りの発生場所と発生時刻をほぼリアルタイムで効果的に検出する新手法を開発した。地球温暖化に伴って豪雨による土砂災害が増えるとされる中、防災対策への貢献が期待される成果だ。 地震の震源決定は、観測地点に地震波が到達した時刻を検出することから始まる。複数の観測地点で地震波の到達時刻が検出できれば、その時間差から、震源を推定することが可能だ。 しかし、地滑りの場合は、通常の地震よりも周期がとても長い(振動がゆっくりと生じる)地震動が生じることが多く、波の到達時刻をはっきりと読み取ることが難しかった。そこで奥脇助教が着目したのが、三組アレイ(三つの観測点で構成する三角形型の観測点配置)による観測だ。 三組アレイ内の近接する観測点同士では、地滑りで生じた地震波形が類似する。類似した波形が各観測点に到達した時刻の時間差が分かれば、地滑りの発生場所とその時刻を推定することができる。 奥脇助教は、防災科学技術研究所が整備・運用する地震観測網(F-net) を中心とした日本とその周辺の地震観測点(103カ所)を三組アレイ化して解析した。 2011年の台風12号が日本列島を通過した際に記録された地震波形データに新手法を適用したところ、静岡県と三重県で発生した地滑りを検出することができた。特に浜松市天竜区で発生した天竜地滑りは崩壊規模が長さ、幅ともに100㍍級の小さな規模だったが、地震波が台湾付近まで伝わっていることも明らかになった。 地滑りは、地震や集中豪雨などがきっかけとなり、急峻な山間部などで発生することが多い。そのため、速やかな現地調査が難しく、対応が大幅に遅れることがある。 今回開発された手法は観測データの自動解析が可能で、ほぼリアルタイムで地滑りの発生場所や時刻、規模を推定できる。関係機関にこうした情報を早期に提供できれば、地滑りが河川をせき止めることで生じる天然ダムによる二次災害の防止などにも役立つ。 また、過去に記録された観測データの解析によって、地滑り発生状況の長期的な変化を追うことができ、今後の発生推移の予測に役立つことが期待される。 奥脇助教は「温暖化がもたらす豪雨の頻発は、地滑りの発生にも影響を与えている可能性がある。日本には過去20年以上にわたる地震波形データがある。これを活用し、気温の上昇や雨量の推移と地滑りの発生との関係を調べたい」と話した。(天野隼太=比較文化学類2年)