恐竜の王者と聞いて思い浮ぶのはティラノサウルスだろう。全長最大約13㍍、体重同約9㌧と史上最大級の肉食恐竜だ。だが、彼らの仲間は元々小型種が多く、覇権を握ったのは恐竜時代の最後(白亜紀末期)だった。それ以前は、カルカロドントサウルス類と呼ばれる肉食恐竜が生態系のトップにあったという。 田中康平助教(生環系)と小林快次・北海道大教授らの研究グループは今年9月、ウズベキスタンでカルカロドントサウルス類の新種化石を確認したと発表。覇権交代劇の謎に迫る成果として世界的注目を集めている。 この化石は後期白亜紀( 約9 0 0 0 万〜9200万年前)の地層から発掘され、同国の博物館で保管されていた。 同系統の既存の化石との比較などからカルカロドントサウルス類の新種と分かり、「ウルグベグサウルス・ウズベキスタネンシス」と名付けられた。「ウズベキスタンのウルグ・ベグのトカゲ」という意味で、「ウルグ・ベグ」は15世紀にウズベキスタン地域を支配した君主の名にちなむ。 「ウズベキスタンの人々の誇りになる名前になればと考えた」と田中助教は話す。 新種の体長は約7・5㍍、体重は1㌧以上と推定された。同じ地層からは、小型のティラノサウルスの仲間(ティラノサウロイディア類)も見つかっていたが、その5倍以上の大きさだ。 カルカロドントサウルス類とティラノサウロイディア類の共存例としてはアジアでは初めてで、世界で最も新しいケースとなった。 これまでの研究によれば、カルカロドントサウルス類は最大全長約13㍍、体重は6〜7㌧。 ティラノサウルスよりやせ型だが、獲物の肉を切り裂くのに適したナイフ状の歯を持っていた。ジュラ紀から白亜紀半ばに汎世界的に繁栄し、生態系の頂点に君臨した。それ以降は北半球から姿を消し、南半球でのみ繁栄、多様化したという。 これに対し、ティラノサウロイディア類は、カルカロドントサウルス類が姿を消した北半球で巨大化し、覇権を握ったとされる。 北米で見つかった化石の研究から、約9 6 0 0 万年前から9400万年前までは、カルカロドントサウルス類が地上を支配していたことが確認されている。一方、8400万年前以降はティラノサウロイディア類が北半球の覇権を握っていたことが分かっている。9400万年前から8400万年前の1000万年間の空白期間に交代劇が起きていたことになる。 今回の発見で、少なくとも9000万年前まではカルカドントサウルス類がティラノサウロイディア類を圧倒していたことが判明し、交代劇の空白期間が大幅に狭まった。 田中助教は「ウズベキスタンは恐竜研究がまだ限定的で、今後も大きな発見が期待できる。欧州とアジアの東端に位置する日本、その中間にあるウズベキスタンの化石を分析すれば、恐竜が北半球でどのように分布域を広げていったかを考えるきっかけになる。調査を継続していきたい」と話している。(天野隼太=比較文化学類2年)
ウズベキスタンで新種恐竜 ティラノとの交代劇解く新証拠
代表者 : 田中 康平