だれもが、激しい運動後の筋肉痛を経験したことがあるでしょう。ですが、痛みは数日程度で和らぎ、損傷した筋肉は修復されます。このように筋肉 (骨格筋) は再生・修復能力に長けた組織ですが、その能力は加齢や病気により著しく低下します。これを防ぎ、修復機構を生涯にわたって維持するには、骨格筋組織内に存在する幹細胞 (骨格筋幹細胞) の機能解明が欠かせません。
子供が成長する過程で、骨格筋幹細胞は盛んに増殖し、筋肉を形成します。成長が止まった大人の筋肉では、骨格筋幹細胞は眠った状態(休止期)に入りますが、激しい運動などで骨格筋が障害を受けると、眠りから目覚めて増殖し、筋肉を修復・再生します。再生が完了すると、再び眠りにつきます。ところが、加齢や慢性的な疾患に伴い、勝手に目覚めてしまう骨格筋幹細胞が増えます。このような状態が続くと、幹細胞の数や機能が徐々に低下し、加齢性の筋肉疾患につながると考えられます。
このため、本研究チームは、骨格筋幹細胞が眠る仕組みを解き明かし、将来的には幹細胞の減少や機能低下を予防する方法を確立したいと考えています。
本研究では、休止期の骨格筋幹細胞の表面に強く発現している接着型Gタンパク質共役受容体のGPR116に着眼し、骨格筋幹細胞が眠る仕組みの一端を解明しました。GPR116遺伝子を欠損したマウスを作製してその機能を調べた結果、GPR116 とその標的となる下流因子 β-arrestin1 が骨格筋幹細胞の休眠状態に必須であることを同定しました。GPR116 自体は、細胞の外側にある物質(細胞外基質)と結合し、細胞外の情報を細胞内部へ伝えることで休眠状態を維持することが示唆されました。
今後、GPR116やその関連経路を創薬ターゲットにすることで、加齢や病気によって異常に活性化した骨格筋幹細胞を眠りへと誘う新しい筋疾患治療法の開発に貢献することが期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学医学医療系/トランスボーダー医学研究センター(TMRC)再生医学分野
藤田 諒 助教 (卓越研究員)