慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が原因で発症することが多く、日本の患者数は成人の8人に1人(約1330万人)と推計されています。慢性腎臓病は、初期症状がほとんどないまま進行し、重症化した腎臓の機能障害は、心筋梗塞や脳卒中、動脈硬化症などの心血管疾患の発症リスクも著しく増加させることから、より早期に診断し、重症化の予防や治療を開始することが必要とされています。しかしながら、現在のところ、進行した慢性腎臓病の根本的な治療薬はありません。
本研究グループは、これまでに、転写因子(遺伝子の発現を制御するタンパク質)c-Mafが、糖尿病に対する治療効果に加えて、腎障害や心血管疾患にも関与する近位尿細管の各種膜輸送体タンパク質の発現を制御していることを発見しています。また、c-Mafは、胎生期の臓器の発達や免疫細胞の機能調節に関与することが知られていますが、成体での働きはよく分かっていません。
本研究では、糖尿病とそれに伴う腎障害を発症するモデルマウスにおいて、成体になってから全身でc-Mafを欠損させたところ、糖尿病による高血糖や腎障害が改善され、腎障害の主な原因の一つである腎臓の酸化ストレスを減少させることを発見しました。すなわち、c-Mafの発現時期を制御することで、糖尿病および慢性腎臓病を改善できると考えられ、c-Mafを標的とした糖尿病および慢性腎臓病の新規治療法の開発につながる可能性が示唆されました。
PDF資料
プレスリリース
研究代表者
筑波大学医学医療系
高橋 智 教授
掲載論文
【題名】 Transcription factor c-Maf deletion improves streptozotocin-induced diabetic nephropathy by directly regulating Sglt2 and Glut2 【掲載誌】 JCI insight 【DOI】 10.1172/jci.insight.163306