感染症予防には、病原体が人の体内に到達するまでの感染経路を遮断することが重要です。しかし、接触感染では、手指や物に付着した病原体が、どのようにして他の人の手指に移っていくか、これまで十分に分かっていませんでした。本研究では、実態調査に基づく生活者の行動モデリングと、各種材質基板とモデル皮膚を使い、家財・携帯品・手指などに付着したウイルス量を推定するエージェントベースシミュレーションモデルを開発しました。
このシミュレーションモデルを用いて、生活者が外出先から自宅に戻ってきた際に生じる、住居内のウイルスの拡散状態を分析しました。その結果、帰宅前に一定量のウイルスが手に付着したと仮定した場合、帰宅直後から手洗いまでの多くの行動で、室内のさまざまな箇所に手指のウイルスが付着し、これに次の帰宅者が二次接触して、さらに室内に拡散させることが分かりました。玄関内での手指消毒と早めの手洗いなど、帰宅直後の衛生行動のタイミングを工夫すること、また、同居者に感染者がいた場合には、感染者が療養する部屋を出る際に手指消毒を行うことで、他の同居者の二次的なウイルス接触リスクが低減するという結果も得られました。
日常生活におけるウイルスの付着箇所や広がり方が分かれば、より効果的な感染予防対策ができ、予防の負担軽減にもつながります。今後はこのシミュレーションモデルをさらに発展させ、家庭内だけでなく、公共場面における病原体接触リスクを解析し、社会全体の感染予防に向けた衛生行動の提案を目指します。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学ビジネスサイエンス系
倉橋 節也 教授
ライオン株式会社 先進解析科学研究所
柿澤 恭史 所長
掲載論文
【題名】 A tipping point of spreading viruses: Estimating the risk of household contact transmission of COVID-19
(ウイルス拡散の転換点:COVID-19の家庭内接触感染のリスクの推定家庭内帰宅時接触行動に伴うウイルス拡散リスクとケア効果の可視化) 【掲載誌】 Frontiers in Physics 【DOI】 10.3389/fphy.2022.1044049
【題名】 家庭内帰宅時接触行動に伴うウイルス拡散リスクとケア効果の可視化 【掲載誌】 人工知能学会論文誌 【DOI】 10.1527/tjsai.38-2_B-MA6