細胞内の脂肪酸組成を調節することが白血病治療につながる可能性を発見

代表者 : 千葉 滋    中核研究者 : 加藤 貴康  

急性骨髄性白血病(AML)の治癒率は向上しましたが、その恩恵を受けてきたのは主に、副作用に耐えられる50歳代以下の若・壮年者です。しかしAMLを発症しやすいのは60歳代以降で、こうした患者にも適用できる副作用の少ない新規治療法の開発が必須です。

本研究では、 細胞内の脂肪酸組成を変えることがAMLの新規治療になりうるかを検討しました。脂肪酸には多様な種類があり、その組成が細胞内で異なることで、細胞の働きがさまざまに調節されています。細胞内の脂肪酸は、炭素数16〜20の分子が主体です。炭素数を16から18に伸長する酵素ELOVL6が細胞内の脂肪酸組成に大きく影響を与えることから、本研究ではElovl6遺伝子を不活化したE6KOマウスを用いて、脂肪酸組成の変化によって、造血幹細胞やAML発症がどのような影響を受けるかを調べました。その結果、E6KOマウスは健康で血液異常を認めませんが、骨髄細胞での脂肪酸組成が変化していました。この骨髄細胞を正常マウスに移植しても、骨髄での造血は観察されませんでした。一方、AML誘導遺伝子を導入した野生型マウスの骨髄細胞を正常マウスに移植するとAMLを発症します。しかし、同じ遺伝子をE6KOマウス骨髄細胞に導入して増殖させた場合、細胞内の脂肪酸組成が変化し、これを正常マウスに移植してもAMLは発症しませんでした。このような脂肪酸組成の変化により細胞運動を司るシグナル伝達が低減することが、AML発症抑制の一因であることも明らかになりました。

以上より、細胞内の脂肪酸組成を変化させることが、副作用の少ないAMLの治療につながる可能性を示しました。

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プレスリリース

研究代表者
筑波大学医学医療系
千葉 滋 教授
加藤 貴康 講師

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態生理化学分野
佐々木 雄彦 教授

掲載論文
【題名】 The fatty acid elongase Elovl6 is crucial for hematopoietic stem cell engraftment and leukemia propagation.
(脂肪酸伸長酵素Elovl6は造血幹細胞の生着と白血病発症に必須である) 【掲載誌】 Leukemia 【DOI】 10.1038/s41375-023-01842-y