筋肉を速筋タイプにする転写因子を同定〜加齢や病気で低下した筋機能の改善方法開発に期待〜

代表者 : 高橋 智    中核研究者 : 藤田 諒  

筋肉(骨格筋)を構成する筋線維 (骨格筋細胞) は、遅筋 (I型, 赤筋) と速筋 (II型, 白筋) の2タイプに大別され、 さらに速筋は3タイプ(IIa, IIx, IIb)に分けられます。遅筋はマラソンのような持久的な筋収縮が得意です。一方、速筋は収縮スピードが速く、瞬間的に大きな力を出す特性があります。実際の筋肉には異なるタイプの筋線維がモザイク状に入り混じって存在しており、その比率によって、収縮能力や代謝能力など筋肉の質が決まります。筋肉の線維タイプ組成は、さまざまな環境因子 (老化、トレーニング、宇宙滞在、不活動、筋疾患、食事など) の影響で後天的に変化します。

これまで、遅筋線維を誘導する強力な因子はいくつか同定されていましたが、速筋線維を誘導する因子はほとんど知られていませんでした。このため、本研究チームは、特に速筋線維を作り出す機構の解明を目指しています。

宇宙環境下でマウスを約1カ月飼育すると、筋肉の萎縮と速筋化が生じることは古くから知られていました。本研究チームは今回、宇宙飼育マウスの骨格筋で発現している遺伝子を解析し、大Maf群転写因子 (Mafa, Mafb, Maf) と呼ばれる3種類の遺伝子の発現が顕著に上昇していることを発見しました。次に、その働きを調べるため、骨格筋に発現する大Maf群転写因子をすべて欠損させたノックアウトマウスを作製しました。すると、このマウスの筋肉は、速筋タイプの中でも最も速筋線維の特性が強いIIb タイプが消失し、IIaとIIbだけで構成されるようになりました。また、それとは反対に、大Maf群転写因子を筋肉で過剰に発現させると、本来はIIb 線維を持たない筋肉でIIb 線維を作出できることを明らかにしました。

今回の研究成果を踏まえ、大Maf群転写因子を創薬のターゲットにすれば、加齢や病気によって変化した筋線維のタイプを再プログラム化し、筋肉の質を改善させる方法の開発が期待できます。また、将来的には、肉質制御による食肉産業への応用、さらにはアスリート向けなどのトレーニングプログラムの開発にもつながると考えられます。

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プレスリリース

研究代表者
筑波大学医学医療系/トランスボーダー医学研究センター 遺伝子改変マウス分野
高橋 智 教授

筑波大学医学医療系/トランスボーダー医学研究センター 再生医学分野
藤田 諒 助教 (卓越研究員)

掲載論文
【題名】 Large Maf transcription factor family is a major regulator of fast type IIb myofiber determination.
(大Maf群転写因子は骨格筋を速筋線維タイプIIbに決定する主要な因子である) 【掲載誌】 Cell Reports 【DOI】 10.1016/j.celrep.2023.112289