麹菌使い代替肉を開発 環境問題の解決に貢献

代表者 : 萩原 大祐  

焼き色を含め、見た目は成形したひき肉のようだった。一口かむと、やはり肉のようなうま味が口いっぱいに広がった。 萩原大祐准教授(生環系)らが「麹こうじ菌」を培養し、牛肉などの代替肉として開発した「麹肉」を食べさせてもらった。「肉」そのものだった。 萩原准教授は「麹肉の開発は、地球環境問題の解決に貢献し、新たな食品産業の創出にもつながる」と話している。 麹菌は日本で1000年以上前から利用されてきた微生物だ。みそやしょうゆ、日本酒などの発酵食品の生産に欠かせない存在で、大豆や米などを分解し、うま味成分に変えたり、素材を柔らかくしたりする。 キノコなど同じ糸状菌と呼ばれる菌類の仲間で、菌糸と呼ばれる管状の細胞を伸ばして成長する。 麹菌は砂糖のような炭素源とたんぱく質の成分となる窒素源などを溶かした溶液で育てる。 溶液の入ったフラスコに100万分の1㌘にも満たない胞子約20万個を入れると、菌糸を伸ばし、5日間で約20㌘の塊に増殖する。 取り出された麹菌の塊をろ過し、つなぎとなる卵白と一緒にミキサーにかける。その後、塩で味を整え、成形して焼いたものを今回、試食した。 萩原准教授らが代替肉開発に挑むのは、畜産による食肉供給に黄色信号がともっているからだ。 畜産による食肉の大規模生産には、大量の水や飼料、広大な土地が必要だ。世界人口が増え続ける中、環境負荷が大きいこれまでの供給体制を維持できるか、懸念されている。世界の温室効果ガス排出量の約2割は農林業由来で、多くを畜産関係が占めてもいる。 このため、畜産肉、魚肉に続く第三の肉の開発が世界的に進む。多いのは大豆など植物を使ったものだが、広大な農地が必要で、風味に癖があるなどの指摘もある。 一方、麹菌なら、培養に広大な土地や水は必要なく、生育速度も速い。 また、うま味成分のグルタミン酸は麹肉100㌘当たり1300㍉㌘と昆布並みで、たんぱく質含有量は100㌘当たり55㌘と、大豆や牛肉を大きく上回る。 麹肉プロジェクトのきっかけは、科学技術振興機構(JST)の「ミレニア・プログラム」事業に参加するため、筑波大の若手研究者らが結成した「チーム ポスト・アントロポセン(人新世)」のメンバーになったことだ。同事業の狙いは2050年の社会像と科学技術の果たすべき役割を考えることで、議論の過程で「麹菌」の活用が浮かんだ。 今後の実用化に向けては、特許の取得や効率的な大量生産方法の確立などが課題となる。 萩原准教授は「新たな食品としての可能性を追求しつつ、おいしさや加工方法の幅広さなどを食品会社に発信している最中だ。企業と共同研究しながらビジネス化していきたい」と展望を語った。(小栗あおい=社会学類3年)