植物の葉の表面にある小さな穴が気孔だ。気孔が開閉することで、植物は大気から二酸化炭素や酸素を取り込んだり、水分を放出したりしている。ヒトに例えれば、口や鼻のような存在だ。 石賀康博助教(生環系)らの研究チームは、生物の構成成分でもあるアミノ酸をキャベツの葉に噴霧すると、キャベツが黒斑細菌病という植物の感染症にかかりにくくなることを突き止めた。アミノ酸を吹きかけることで気孔の開きが小さくなり、気孔から細菌が入り込みにくくなるためだという。 黒斑細菌病はキャベツや白菜などアブラナ科の野菜の感染症だ。感染すると葉が黄色くなったり、壊え死ししたりして、世界の農業生産に大きな被害を及ぼしている。これまでは、殺菌剤や抗生物質の散布が主な防御手段だったが、薬剤耐性菌が出現するなどの問題があった。 アミノ酸を用いる今回の方法であれば、抗菌薬の開発と耐性菌の出現との「いたちごっこ」を脱することができるため、持続可能な農業の実現に貢献すると考えられる。 先行研究から、石賀助教らは黒斑細菌病菌が主に気孔から植物に侵入すると考えていた。アブラナ科の植物の気孔は約1000分の2㍉で、細菌が通るのに十分な大きさがある。 一方、一部のアミノ酸には植物を病気に強くすることが知られていた。このため、研究チームは生物を構成するたんぱく質のもとになっている20種類のアミノ酸(生体アミノ酸)に着目した。 種をまいてから2週間育てたキャベツの葉にそれぞれ一種類ずつ吹きかけ、その後に黒斑細菌病菌を吹きかけた。その結果、20種類中14種類のアミノ酸に黒斑細菌病の症状やキャベツ中の細菌数を抑える効果があることが分かった。 アミノ酸をキャベツの葉に吹きかけ、内部に細菌を注射した時には黒斑細菌病を予防できなかったことから、アミノ酸は細菌が植物に侵入する前の段階で予防効果を発揮していると考えられた。 また、特に予防効果が高かったアミノ酸3種類(システイン、グルタミン酸、リシン)を吹きかけた苗について解析し、効果のメカニズムを更に詳しく調べた。 これらの苗の葉では、未処理の葉に比べ気孔の開き幅が小さくなった。そして、その幅が小さいほど、細菌の侵入数も減る関係が認められた。 石賀助教らは今後、アミノ酸の組み合わせを工夫して病気の予防効果を更に高めたり、農家と協力して実際の畑で効果を検証したりする研究に取り組む予定だ。 黒斑細菌病に限らず、多くの細菌病菌は気孔が主な侵入場所のため、今回の手法が他の細菌感染症対策にも応用できる可能性がある。 石賀助教は「今回の知見を農家など現場で活用してもらえたらうれしい」と語った。 (島崎翔=医学類5年)__
アミノ酸でキャベツの病害対策 気孔からの病原菌侵入防ぐ
代表者 : 石賀 康博