睡眠と覚醒のリズムにメリハリがあることは心身の健康に重要です。夜間にしっかり眠り、朝スッキリ目覚めることで、覚醒直後の午前中を生産的に過ごすことができます。同様に、マウスも主に眠って過ごす明期(昼間)から、活動期である暗期(夜間)への切り替わり直後に、最も覚醒度が高くなり活発に動き回ります。しかし、睡眠後のしっかりした覚醒をもたらす仕組みは明らかになっていませんでした。
本研究では、ペースメーカーとしての役割を持つ視交叉上核という小さな脳部位において、細胞内のタンパク質リン酸化酵素であるSIK3を欠損させると、睡眠後のしっかりした覚醒がなくなり、時間をかけて覚醒が増えていくことを見いだしました。視交叉上核のSIK3を欠損させても1日の睡眠時間は変わらないことから、これは、人で言えば、睡眠・覚醒のメリハリが不明瞭になり、朝の爽快な目覚めが得られない状態に相当します。また、終日、真っ暗な環境で飼育したところ、体内時計のサイクルも延長していることが明らかになりました。
本研究チームは、これまでにSIK3が睡眠の質や量の制御に関わることを示しており、今回、新たにSIK3が睡眠・覚醒のリズムにも関わることを示しました。視交叉上核でSIK3を欠損させても睡眠の質や量は変化しないことから、SIK3は異なる神経細胞集団を介して、睡眠の質と量、さらに睡眠・覚醒のリズムを制御していると考えられます。今後、SIK3シグナルを標的とした介入方法の開発により、さまざまなタイプの睡眠障害への治療的アプローチが実現すると期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
柳沢 正史 教授
船戸 弘正 客員教授/東邦大学大学院医学研究科 教授
掲載論文
【題名】 SIK3-HDAC4 in the suprachiasmatic nucleus regulates the timing of arousal at the dark onset and circadian period in mice
(SIK3-HDAC4は視交叉上核において覚醒タイミングと概日リズムを制御する) 【掲載誌】 Proceedings of the National Academy of Sciences 【DOI】 10.1073/pnas.2218209120