生命環境系 奥脇 亮 助教
地球の表面はプレートと呼ばれる岩石の層(厚さ約10~100㌔)で覆われています。主要なプレートは十数枚で、その境界ではプレート同士の衝突が起きたり、片方のプレートの下にもう片方が沈み込んだりしています。その結果、地下の岩盤には押したり引いたりする力が加わります。すると、岩盤がある面を境に急激にずれ動くことがあります。これが地震で、岩盤のずれを地震破壊、ずれた面を断層、ずれた領域を震源域と言います。日本が地震国なのは、周辺に複数のプレート境界があり、地下の岩盤に複雑な力がかかっているからです。
奥脇さんの主な研究テーマが「地震破壊の成長過程の解明」です。国内外の地震観測網で記録された地震波形から、どのような形状の断層がどのようにずれ動いたのかや、それに伴なってどのような地震波が、いつどこで発生したのかなどを解析していくのです。
一般的な震源過程解析では、断層形状を仮定し、観測された地震波形がそのモデルで説明できるかどうかを、コンピューターを使って調べます。しかし、仮定がうまくできていないと、断層の奇妙な動きや微妙な動きが見つからないことがあります。このため、奥脇さんは、恩師で共同研究者でもある八木勇治教授(生命環境系)が中心になって開発した「ポテンシー密度テンソルインバージョン」という手法を活用しています。断層の形状を仮定せず、観測された地震波形そのものから、地震を起こした断層の形状やそれに伴う破壊の成長過程を推定する手法です。
奥脇助教
地球はとても活動的な存在で、そのメカニズムに迫りたいという
2018年にインドネシアで起きた「パル地震」(M7・6)に適用したところ、地震破壊が速く進んだり遅くなったりを繰り返す、シャクトリムシのように進む様式だったことが分かりました。震源域は南北約150㌔。直線的に見える断層の所々に小さな折れ曲がりがあり、破壊の進行を妨げたり、逆に速く進めたりする働きをしていました。複雑な断層形状と地震破壊の進展との関係を実測データから解き明かした世界初の成果でした。
また、大西洋の中央海嶺にあるトランスフォーム断層で2016年に起きた「ロマンシェ地震」(M7・1)を同様に解析したところ、破壊の進行方向がブーメランのように途中で向きを変える特異な破壊様式だったことが明らかになりました。トランスフォーム断層とは、プレート同士が水平にすれ違っている部分のことです。形状は一見単純ですが、地下構造などの影響で、ブーメラン破壊が起きたと考えられました。こうした知見から今後の地震の揺れを予測し、防災に生かすことが大切です。
奥脇助教
膨大な地震観測記録の中に埋もれたデータを生かしたい
そんな発想が地すべり検出法開発につながった
奥脇さんは2020年3月から2年間、英リーズ大学に留学しました。同大は、地震がもたらす地殻変動を衛星で観測する研究で世界をリードしています。衛星の観測データと地上で観測した地震波形を組みわせれば、地震破壊の過程を従来より精度よく解析できます。コロナ禍の影響で外出すらできない日々もありましたが、現地の研究者と交流し、人脈を築くことができたといいます。
奥脇さんが地震を専門に研究しようと思ったのは、筑波大学地球学類1年生のころ。入学後の学びで、地震や火山の噴火など地球がとても活動的なことを知ったからです。
奥脇助教
学生と議論する中でアイデアが浮かぶことも多い
実は、地震がなくても地表は常に揺れています。大気や海洋の動きの影響もあれば、地すべりの発生に伴う揺れもあります。奥脇さんたちは「地球の貧乏ゆすり」とも言えるこうした揺れの中から、地すべりの揺れを検出し、発生位置と時刻を特定する手法を開発しました。地すべりの揺れは、地震よりも微弱でゆっくりとした振動のことが多く、観測地点に揺れがいつ到達したのかを読み取りにくいことが問題でした。奥脇さんたちは、観測地点が近ければ地すべりで生じた揺れの波形が類似することを利用し、類似した波が各観測点に届いた時間差から発生場所と発生時刻を推定する新手法を編み出したのです。
2011年の台風12号が日本列島を縦断した際の地震観測記録にこの手法を当てはめたところ、静岡県と三重県で発生した地すべりを検出することができました。新手法は地すべり災害の早期発見や災害リスクの低減につながることが期待されます。
地震国日本には、膨大な観測データが残り、これからも増え続けて行きます。その中には気候変動と地球の貧乏ゆすりの関係など、未知の情報が隠されているかもしれません。そんな「宝の山」の発掘も楽しみです。
(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)