ペクチンは植物の細胞壁を構成する多糖成分(いわゆる食物繊維)で、一般的にはジャムの成分として知られています。ペクチンのメチル化の制御や分解は植物の発生に欠かせないと考えられていますが、そのメカニズムはまだ十分に解明されていません。花粉の発生過程についても同様で、極めて初期の過程におけるペクチンの機能に関する研究はほとんどありませんでした。
本研究では、花粉形成の最も初期段階である花粉母細胞において、その細胞壁を構成するペクチンの分解と合成の調節が、花粉の発生に重要であることを示しました。 本研究チームは、ペクチンのメチル基を分解する酵素(ペクチンメチルエステラーゼ、PME)を過剰発現したイネを作成し、野生型のイネと成長段階を比較しました。その結果、花を咲かせる前の栄養成長段階では、正常に生育し、野生型との違いはありませんでした。しかし、花を咲かせた後の比較では、雌しべは正常だったものの、花粉をつくる雄しべの葯(やく)の中に花粉はほとんど存在していませんでした。
どうしてこのようになるのかを調べるため、花粉の発生過程を、最も初期段階である花粉母細胞の時期から観察しました。花粉の発生過程では、花粉母細胞が減数分裂して花粉四分子となり、これらが体細胞分裂して花粉が形成されます。しかし、PME過剰発現イネでは、花粉母細胞の後期段階から細胞同士が異常にくっついた様子が観察され、その後の花粉四分子、花粉の形成は起きませんでした。そこで、ペクチンの分布を免疫組織化学染色で確認したところ、初期の花粉母細胞の細胞壁で、ペクチン量が維持できていない様子が観察できました。正常な細胞接着に必要なペクチンの量が維持できないことが原因で、異常に花粉母細胞同士が結合し、その後の花粉形成を阻害したものと考えられました。
以上より、花粉の形成には、花粉母細胞の時期の細胞壁においてペクチン量が適切に保たれ、正常な細胞接着を維持することが重要であることが示されました。
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プレスリリース
研究代表者
筑波⼤学⽣命環境系
岩井 宏暁 准教授
掲載論文
【題名】 Maintenance of Methyl-Esterified Pectin Level in Pollen Mother-Cell Stages Is Required for Microspore Development
(花粉母細胞でのメチルエステル化ペクチンレベルの維持が小胞子形成に必要である) 【掲載誌】 Plants 【DOI】 10.3390/plants12081717