図地分離の仕組みを解明 AIの認識向上にも貢献

代表者 : 酒井 宏  

私たちは普段、自然の風景に含まれるさまざまな物体を、背景と切り分けて認識している。酒井宏教授(シス情系)と大阪大大学院の田村弘准教授らの研究グループは、その働きを担っているのが、脳の大脳皮質にある第4次視覚野(V4)の細胞集団であることを突き止めた。得られた情報から脳が正しい認識や判断を行う仕組みを知ることは、人工知能(AI)の判断の質向上などにもつながると期待される。 物体(図)を背景(地)から切り分けて認識することを「図地分離」という。人やサルで特に優れている高度な能力だ。例えば、森の中の「人」を認識するには、その前段階として、森の中に森以外の「何か」があることを見つけることが第一歩となる。 だが、「何か」がまだ「人」だと分かっていない段階で、脳が背景から「何か」を切り取る仕組みは解明されていなかった。 酒井教授らはこれまでの研究で、V4の神経細胞集団が、図地分離の手掛かりとなる物体の輪郭や色、表面を認識する処理をしていることを明らかにしてきた。ただ、これらの細胞集団が図地分離そのものをしているかは分かっていなかった。 酒井教授らはこれらを踏まえ、新たな実験を行った。 まず、さまざまな風景写真から、そのごく一部を切り取った画像を約1000枚用意した。この画像を0・5秒間だけ被験者に次々に見せ、画像のどこに物体があるかを示してもらった。その判断時間の長短から、画像を簡単な順番に並べ替えた。 次に、同じ実験をサルでも行った。この時、サルの脳に電極をつないでV4の神経細胞の反応を記録し、人の実験結果と照らし合わせた。その結果、人にとって簡単だった画像ほど、サルのV4の神経細胞の反応時間も短くなる一方、反応の強度や反応の一貫性は高くなっていた。 これは、人にとって図地判断が簡単な画像ほど、サルのV4の神経細胞にとっても簡単だったことを示している。 酒井教授らは、これまでの研究結果と合わせ、背景から「何か」を見つけているのがV4を中心とした視覚野であり、そのために数十の細胞からなる集団が、図地・輪郭・表面の情報を統合して「何か」を形作っていると結論付けた。 酒井教授は、「今後は、V4の神経細胞一つ一つが集団の中でどのように関わり合って図地判断をしているのかを解明したい」と話している。(久玉佳純=比較文化学類3年)