勉強が出来るようになるコツは、自分の学習能力を客観的に監視・制御することです。このような能力は教育心理学で「学習の学習」や「メタ認知」と呼ばれてきました。しかし、その脳内メカニズムの理解は十分に進んでいません。認知能力の監視と制御という再帰的な構造を持つため、構成要素を分割して調べる還元主義的なアプローチが困難であったことが影響していると考えられます。
本研究では、人工知能(AI)とヒトのメタ認知を比較することで、研究パラダイム上の問題を克服しようとしました。
まず、金銭的な報酬の最大化と罰の最小化を目指す人工知能のメタ認知システムは、環境やタスクに応じて学習のスピードや記憶の保持能力を適切に調節できることを示しました。次に、運動スキルの上達を目的とした運動学習課題を実施中のヒトに金銭的報酬を与えることで、運動学習のスピードと記憶の保持能力を高めたり、抑制したりできることを世界で初めて示しました。これは、ヒトの脳に、報酬情報に基づく運動学習のメタ認知能力が備わっていることを示唆しています。その一方、人工知能は報酬情報と罰情報に対して同等のメタ認知能力を発揮していたのに対し、ヒトは報酬情報によって記憶の保持時間を調整し、罰情報によって学習スピードを調整するという非対称的な特性を有することが明らかになりました。非対称的であるという特性は、ヒトのメタ認知の脳内メカニズムを理解する上で重要なヒントになると考えられます。
これらの結果は、ヒトが未経験のスポーツ種目に取り組む場合や、リハビリテーションで新しい身体構造に適応する運動スキルを獲得する際に、効率的に学習能力を高めることができるようにする技術開発に貢献することが期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学システム情報系
井澤 淳 准教授
掲載論文
【題名】 Reinforcement learning establishes a minimal metacognitive process to monitor and control motor learning performance. 【掲載誌】 Nature Communications 【DOI】 10.1038/s41467-023-39536-9