母親が経験した社会環境が息子の繁殖戦術に影響を与える

代表者 : 佐藤 幸恵  

雌をめぐる雄間競争が激しいナミハダニでは、雄の代替繁殖戦術が見られ、日齢や周囲の雄密度といった自身の状態や環境が繁殖戦術に影響を与えることは知られていましたが、それに加えて、母親が経験した性比といった社会環境も、息子の繁殖行動に影響を与えることを見いだしました。
雌をめぐる激しい雄間競争において、雄はしばしば、代替繁殖戦術(従来とは異なる方法で子孫を残そうとする方法)を進化させます。多くの場合、この戦術は、自身の状態や周囲の環境によって決まります。しかし、もし母親が、自身の状態や環境から、息子が遭遇する状況を予測できるならば、母性効果が重要な役割を果たすと予想されます。

本研究では、雄間競争の激しさの予測因子として、雌雄の比率(性比)などの社会環境に着目し、ナミハダニでは、母親世代の性比が雌に偏ると、代替戦術をとる雄による早期の交尾前ガード行動(交尾の前に雄が雌を確保する)が誘導されることを見いだしました。母親は、雌に偏った性比の下では普段よりも多めに雄の子を生み、その結果、次世代では雄が増え、雄間競争が激しくなります。ナミハダニの雄は、脱皮して成虫になる直前の雌の背中に乗り、交尾前ガードを行います。雄には、戦うことで雌を確保する「ファイター」と、戦わずに雄ではないように振る舞い、交尾に有利なポジションを確保する「スニーカー」がいますが、スニーカーは既にガードされている雌を略奪することができません。そのため、スニーカーは、雄が多くいる状況では、より早くに交尾前ガードを始めるようになります。これは、母親が自身の置かれた環境の性比から息子世代の雄間競争の状況を予測し、息子の繁殖成功を確実にするために息子の繁殖行動を操作した結果だと考えられます。

本研究結果は、雄の代替繁殖戦術における母性効果の重要性を示唆しています。

PDF資料
プレスリリース

研究代表者
筑波大学 生命環境系
佐藤 幸恵 助教

掲載論文
【題名】 The operational sex ratio experienced by mothers modulates the expression of sons’ alternative reproductive tactics in spider mites.
(母親が経験する実効性比はハダニにおける息子の代替繁殖戦術の発現を調節する) 【掲載誌】 Behavioral Ecology and Sociobiology 【DOI】 10.1007/s00265-023-03370-2