生物の設計図であるゲノムDNAは、真核生物では球状タンパク質(ヒストン)に巻き付いて、コンパクトに核内に納められています。ヒストンにはさまざまな翻訳後修飾が起こり、それによって遺伝子の発現が調節されていますが、本研究では、新たにヒスチジン残基のメチル化修飾を発見しました。
真核生物のすべての遺伝情報が記されたゲノムDNAは、非常に長い二重らせんであり、ヒストンと呼ばれる球状のタンパク質に巻きつき幾重にも折りたたまれて、核内に収められています。ヒストンにはさまざまな翻訳後修飾(化学基の付加)が起きますが、中でも、ヒストンを構成するアミノ酸の一つであるリジン残基のメチル化は、ゲノムDNAの折りたたみ具合を調節し、遺伝子の転写をON/OFFするスイッチとして働きます。
本研究グループは、タンパク質のメチル化修飾の有無や様式を高精度に見分ける独自の技術を駆使し、これまで確認されていなかったヒストンの翻訳後修飾として、ヒスチジン残基のメチル化を見いだしました。ヒストンは、H2A、H2B、H3、H4という4種類のコアヒストンタンパク質が二つずつ集まった8量体で構成されますが、このうちヒスチジンメチル化は、ヒストンH2Aの82番目とH3の39番目のヒスチジン残基に起こることが分かりました。またヒストンH3のすべてのメチル化状態を調べた結果、メチル化修飾のほとんどはリジン残基に集中していたことから、ヒストンのヒスチジン残基のメチル化は、限られた特定の遺伝子領域に存在するヒストンに起こることが示唆されました。
ヒストンには多くのリジン残基があり、メチル化やアセチル化などの多様な翻訳後修飾が起こります。その組み合わせパターンはヒストンコードと呼ばれ、転写調節を指令する暗号と考えられており、今回のヒスチジン残基のメチル化修飾の発見は、ヒストンコードの解読につながる新たな一歩になると期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学生存ダイナミクス研究センター(TARA)
深水 昭吉 教授
大徳 浩照 講師
掲載論文
【題名】 Histidine Nτ-methylation identified as a new post-translational modification in histone H2A at His-82 and H3 at His-39.
(新たなヒストンの翻訳後修飾としてヒストンH2AのHis-82とヒストンH3のHis-39のヒスチジンNτメチル化修飾を同定) 【掲載誌】 The Jornal of Biological Chemistry 【DOI】 10.1016/j.jbc.2023.105131