宇宙は今から138億年前に誕生し、その直後にビッグバンを起こして今も膨張を続けている。その過程で星が生まれ、星の集団である銀河ができた。そして、銀河は互いの重力で引き合うことで銀河の集団(銀河団)を作った。現代宇宙論ではそう考えられている。 では、最初の銀河や銀河団はいつできたのだろうか。橋本拓也助教(数物系)らの研究チームは、こうした宇宙の根源的な謎の解明に挑んでいる。私たち人類も宇宙の一員であることを思えば、宇宙の進化を知ることは、人類の来歴を知ることでもあると言える。 橋本助教らは地球から131・4億光年離れた原始銀河団を観測。銀河の候補が多い「コア領域」から四つの銀河を検出することに成功し、今年9月の日本天文学会秋季年会で発表した。 131・4億光年離れた天体の観測は、その天体の131・4億年前の姿を見たということだ。この銀河団は観測された中で最も遠い、つまり最も古い銀河団だった。 観測の結果、四つの銀河は一辺が3万6000光年(地球がある天の川銀河の直径の4分の1相当)の四角形領域の中にあった。これは、宇宙のスケールでみると、極めて高い密集度になる。 また、コア領域では星の成長と死のサイクルが急速に進んでいることも分かった。観測した四つの銀河のうち三つから、塵が出す電波が検出されたからだ。 重い星は一生を終える際に超新星爆発を起し、さまざまな元素を宇宙空間にまき散らす。その元素が結びついて塵となり、新しい星の材料になる。 「コア領域」以外から塵は検出されず、銀河の密集部分でのみ星の生と死のサイクルが進んでいると考えられた。 また、コンピューターシミュレーションを実施し、数千万年後には四つの銀河が一つに合体すると予想された。 橋本助教らの研究から浮かぶのは、星の誕生と死が活発で、銀河が急速に進化する初期宇宙のダイナミックな姿だ。 今回の観測を担ったのはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と、南米チリの大型電波望遠鏡アルマ望遠鏡。JWSTは米航空宇宙局などが中心に運用し、アルマ望遠鏡は日本の国立天文台などが中心に運用している。 これら二つは従来の宇宙望遠鏡や電波望遠鏡と比べ、それぞれおよそ100倍の感度を持つ。また、細かな構造を見極める分解能も桁違いに高い。 今回はJWSTで四つの銀河が出す酸素イオンの光を検出し、アルマ望遠鏡でこのうち三つの銀河から塵の出す電波を検出することができた。 橋本助教は「銀河進化の始まりを理解することは、宇宙の初期を理解する上で大切だ。銀河は宇宙の基本的な構成要素だからだ。JWSTとアルマ望遠鏡を組み合わせた観測で、銀河や銀河団が成長する様子を捉えることができた。他の銀河団についても、同様の手法で詳しく調べていきたい」と話した。(青野心平=第2類1年)
初期宇宙の銀河進化を観測 二つの最先端望遠鏡が協力
代表者 : 橋本 拓也