新潟、長野、山梨、静岡の各県など本州中央部の温泉水に、150万年~500万年以上も地中深くに閉じ込められた水が含まれていたことが、山中勤教授(生環系)らの研究で分かった。その水は、日本列島の下部に沈み込んでいる岩板(プレート)などに由来するという。地中深くの水がどのように循環しているかを解き明かす成果だ。こうした水は地震や噴火の発生と密接な関係があるとされ、山中教授は「その予測につながる可能性もある」と話す。 水分子は酸素原子二つと水素原子一つでできている。実は酸素、水素とも、通常の原子より少しだけ重い「安定同位体」が存在する。温泉水の多くは、空から降ってくる雨や雪といった「天水」が起源だ。そして、天水には酸素と水素の安定同位体の比率に一定の関係がある。 ところが、実際に温泉水を調べると、この関係から大きく外れる水が検出されることがある。古い地層に含まれた海水や地下のマグマに由来する水などが混入したものと考えられてきたが、その形成過程などはよく分かっていなかった。 山中教授らは、岩石に長い期間閉じ込められている間に水の安定同位体比が変わることを踏まえて、水の由来を推定するモデルを開発。これを、非天水成分が多いと考えられる中央日本の39カ所の温泉水に適用した。 その結果、これらの温泉水に含まれる非天水成分の由来は▽日本列島の下に150万~500万年かけて沈み込んだフィリピン海プレート(深度数十㌔)から放出されたもの▽同じく400万~500万年かけて沈み込んだ太平洋プレート(深度150〜200㌔)から放出されたもの▽500万年以上前に海底で堆積した地層から放出されたものの3種類に分類された。 非天水は、プレートなどの働きで地下深くに閉じ込められた水が、長い年月をかけて地表近くに達した、「水の化石」のようなものだったのだ。 これまで、プレートの沈み込みに伴って運ばれる水の行方は不明確だったが、少なくとも一部は地表に戻っていることが明らかになった。 日本列島では、大陸側の北米プレートとユーラシアプレートの下に、太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでいる。世界でもまれな地殻構造を持つ日本だからこそ得られた、地球の深層の水循環の解明につながる成果と言える。 山中教授は「最近、温泉水中の非天水成分の割合が日単位で変動することが分かった。原因は不明だが、地下深部の何らかの変化を反映しているなら、地震や火山噴火の予測に役立つかもしれない。中央日本以外にも研究対象を広げたい」と話した。(野田健祐=応用理工学類3年)
中央日本の温泉水を調査 地球深層の水循環解明へ期待
代表者 : 山中 勤