人が集団で行動する時に共有する「今」の長さの感覚が、その人が参加している集団が大きくなるにつれて増加することが分かりました。また、その傾向は、集団の中で受動的に振る舞うほど強く現れ、「今」の感覚は、集団のサイズや関わり方によって柔軟に変化していることが明らかになりました。
私たちが外界から受け取る情報は、しばしば異なる速さで脳に到達しますが、例えば、話し手の口の動き(視覚)と声(聴覚)を、同時に「今」起こっていると感じることができます。それは、脳が、ある時間幅内で生じる異なるタイミングの情報を一つのイベントとして統合しているからです。このような時間幅を「Temporal Binding Window」(TBW、時間統合窓)といいます。
本研究では、拍手という集団行動の中で、「今」の感覚(TBW)がどのように調整されるかを調べました。実験参加者に、さまざまな条件下で人工的に生成された拍手音を提示し、「拍手が揃っているかどうか」を判断してもらいました。その結果、拍手の人数(集団のサイズ)が増えるにつれて、TBWは対数的に増加したものの、TBWの曖昧さは人数の増加に影響されないことが明らかになりました。このことは、参加者が集団内で能動的にバラバラな拍手音を統合して「今」を形成していることを強く示唆しています。また、拍手音に合わせてキーを押すタスクでは、TBWが他の条件よりも有意に増加し、参加者が集団の中での不確定な相互作用の中で「今」を柔軟に調整していると考えられます。さらに、集団のサイズとTBW増加の関係から、集団におけるリズムの加速現象(ジョイントラッシュ)が説明できることも分かりました。
本研究結果により、音楽独特のグルーブ感や一体感のような、ヒトの時間感覚の柔軟性が支える集団特有のダイナミクスを明らかにできると期待されます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学システム情報系
新里 高行 助教
長岡技術科学大学技学研究院 情報・経営システム系
西山 雄大 准教授
掲載論文
【題名】 The effect of group size and task involvement on temporal binding window in clap perception
(拍手知覚におけるタスク関与とグループサイズが与える時間統合窓の可塑性) 【掲載誌】 Frontiers in Psychology 【DOI】 10.3389/fpsyg.2024.1355586