農家も”害鳥”も救う!インクルーシブな防鳥網の開発

代表者 : 徳永 幸彦  

害鳥だけを選択的に駆除する、バーチャルな防鳥ネットの開発

茨城県の霞ケ浦は、有名なレンコン産地です。しかし、霞ケ浦のレンコン農家たちは、カモ類などによるレンコンの食害に長年悩まされてきました。そのため、霞ケ浦のレンコン田には、長い間、カモ類などの害鳥から作物を守るために防鳥ネットが仕掛けられてきました。しかし近年、これらの防鳥ネットがレンコンを食害しない鳥

に与える影響が問題視され、不買運動さえ起きました。毎年多くの罪もない鳥が防鳥ネットに絡まり、死んでしまうのです。徳永幸彦先生は、このような状況を背景に、農家からの依頼をきっかけにしてバーチャルな防鳥ネットの開発を始めました。

 

害鳥のみを追い払う、バーチャルな防鳥網の仕組み

バーチャルな防鳥ネットは、レンコンを食べてしまうオオバンやマガモ(害鳥)とそうでない鳥を、採食時の鳴き声から判別し、害鳥にのみレーザー光線を打ち、追い払う装置です(図2)。

バーチャルな防鳥ネットは、レーザー光線を出す部分(図2 赤い部分)と、害鳥を見分ける頭脳部分(図2 青い部分)から成ります。頭脳部分では、鳥を鳴き声によって見分けます。当初、先生のグループは、音声データをスペクトログラムに変換してAIによる画像認識を応用することで、害鳥の鳴き声とそうでない音を判別するシステムを開発しようとしましたが、判別能力の向上に難航し、挫折してしまいました。その後、先生はAIを用いない音声判別システムを考案しました(図3)。

この音声判別システムの特徴は、AIと比較して、はるかに小さなコンピューターへの負荷で同等の精度を発揮する点です。徳永先生は、まず、インターネット上から収集した、害鳥の鳴き声を含む音声データ(図4 最上部)から、意味のあるシグナル(signal)と、それ以外の音であるノイズ(noise)の比(SN比)を用いて、害鳥の鳴き声のみ(シグナル)を抽出しました(図4 signals)。同時に、害鳥の鳴き声を含まない部分(ノイズ)も取り出しました(図4 noises)。

次に、システムの学習に用いる、0.5秒間の音声データを大量に作成しました。この音声データは2種類あり、片方はシグナルとノイズを結合したもの(図4 Yes)で、もう片方はノイズのみからなります(図4 No)。これらの音声データを、以下では訓練データと呼びます。

鳥は種類により体の大きさや喉の構造が違います。そのため、種によって特徴的な音声があります。このような特徴的な音声は、種判別の指標として用いることができます。今回、先生は、LPC(Linear Predictive Coding)という技術を用いて、訓練データから音声の特徴を抽出し(図4 LPC)、システムの学習を行いました。次に、それぞれの訓練データが、特徴的な音声を含むか否かを判別するアルゴリズム(ランダムフォレストRF)を作成しました(図4 RF)。

このようにして、音声から害鳥の存在を判別するシステムが完成しました。

完成したシステムをロボット部分と組み合わせ、実際にレンコン田に導入したところ、害鳥とその他の鳥を判別し、追い払う効果があることが示されました(図5)。12月から4月にレンコン田に来る鳥の種類と個体数を調べたところ、ロボットを稼働させた2月から4月の期間のうち、ロボットが機能している間は、明らかにマガモとオオバンの個体数が減ったのです。このロボットは、現在も実用化に向けた開発が進んでおり、特許出願中でもあります。

 

学生に向けてのメッセージ

インタビューの最後に、学生に向けてのメッセージを伺いました。

徳永先生は、大学生時代にサギや猿、カモシカなどの様々な生き物を追いかけ、野山を駆け巡った遊びの経験が、今に生きていると仰っていました。その上で、本を読むことや、講義を受けることも大事だけれども、そういった遊びの経験がとても重要であると仰いました。

「学生時代にありとあらゆる遊びをやってるかどうかっていうのが大事。僕は学生時代かなり遊ばせてもらったと思って。その経験があるかないかで、その後全然違う。絶対そこで遊ぶべきだと僕は思う。」

その他にも、幅広いソースから情報を仕入れ、多角的に物事を見ることも必要だと話してくださりました。

そして、先生は、研究を行う上で、「プロになる、つまり人に「ありがとう」と言われるような仕事をする」ことを心がけているとおっしゃいました。今回のバーチャルネットの開発も、そのような仕事の一つになっているのだと思います。筆者も研究者になりたいと考えています。その上で、自己満足に終わらず、「人のためになるのか」を常に考えていこうと思いました。

【取材・構成・文:筑波大学生物学類 稲垣実香】

参照文献