ストレスを数値化する新たな手法として、統合情報理論を用いて生体信号を包括的に評価する方法を開発しました。被験者の主観報告の分析により、ストレスが退屈の感情と強く相関することが明らかとなり、この方法が、主観性も含むストレスの包括的な評価指標になりうることが示唆されました。
ストレスは誰しもが経験する身近な事柄ですが、多面的な反応であるがゆえに、その度合いの客観的な数値化は困難です。血圧や発汗や脳波などの互いに独立な生理指標を単独もしくは組み合わせて評価しようとしても、隠れた要因が包括的な解釈に影響を与えることがあります。
本研究では、さまざまな生理指標をバラバラに扱うのではなく、脳を含む身体という一つの統合されたシステムとして捉えることで、主観的に感じるストレスを評価することを試みました。一時的なストレスを引き起こす要因として用いられる計算課題について、難易度の異なる(低、中、高)課題を被験者に解いてもらう実験を実施し、その際の脳波、心電図、皮膚電気活動などの生体信号を測定しました。そして、複数の時系列データからなる動的なシステムのまとまり(統合度)を定量化する手法である統合情報理論を用いて、生体信号全体の活動からストレスを数理的に評価しました。
その結果、中難易度の課題に対しては最も統合度が低く(ストレスが小さい)、低難易度および高難易度の課題では統合度が高くなっていました。また、被験者のさまざまな主観報告を分析したところ、新指標は「退屈」の項目と最も強い相関があることが分かり、主観性も含むストレスの包括的な評価指標になりうると考えられます。本研究成果は、主観的なストレスの基盤には「退屈」という感情があることを示唆しており、明示的な外部刺激の不在に対する反応としてのストレスという新たな視点を提供するものです。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学 システム情報系
新里 高行 助教
長岡技術科学大学技学研究院 情報・経営システム系
西山 雄大 准教授
掲載論文
【題名】 Toward a stressor-free stress estimation: Integrated information theory explains the information dynamics of stress
(ストレッサーに依存しないストレス測定に向けて:統合情報理論によるストレスの情報ダイナミクスの解明) 【掲載誌】 iScience 【DOI】 10.1016/j.isci.2024.110583