キャリア教育やアントレプレナーシップ教育の充実を目指す 福嶋助教の研究対象は 「外国人高度人材」と 「人生100年時代の生き方」
福嶋美佐子助教
ヒューマンエンパワーメント推進局
福嶋 美佐子 助教
PROFILE
東京女子大学文理学部社会学科卒業。
The American University, College of Arts and Sciences, Sociology
留学後、東京ガス株式会社西山研究所にて主任研究員の傍ら、
法政大学大学院政策科学研究科博士後期課程単位修得退学。
博士(政策科学)。
2023年3月より筑波大学ヒューマ ンエンパワーメント推進局キャリア支援チーム助教。
国家資格キャリアコンサルタント。専門社会調査 士。
筑波大学に、エンパワーメント推進局(BHE)が開設されて1 年が過ぎました。学生の就職支援からダイバーシティ、インクルーシブ社会への取り組みなど、多様な施策を行っているのがエンパワーメント推進局です。その専任教員として、多忙な日々を過ごされているのが福嶋美佐子助教です。筑波大学の人材育成プロジェクトが科学技術振興機構で採択され、大学院博士後期課程の3分の1以上が支援対象となりますが、この支援にも関わっている福嶋さん、実はアメリカの大学院への留学経験から、「人生100年時代」とも言われる中で、人はどう生きるのかも研究対象だと言います。
Q 今日はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、ヒューマンエンパワーメント推進局、あまり聞きなれない名前だと思いますが、どういったところなのか簡単にご説明いただけますか。
1人1人をエンパワーメントするっていうものです。以前はダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンターっていっていて、特定の人をサポートする、ダイバーシティだから女性とかLGBTQとか障がいとか、何かそういう何か問題を抱えている人のためのセンターだったんですけど。現在は、そうではない人も含めて1人1人をサポートするっていう部署ですね。
Q 多くの大学である、障がいのある方をサポートする部門などと、就職課のような部門を一つにしたということですよね。
そうです。私は一つにするべきだと思っています。というのは、キャリアとは何だと考えたときに、以前、聖路加国際病院名誉院長の日野原先生が、「命っていうのは時間のことだ」とよくおっしゃっていたんですが、私はその時間の積み重ねがキャリアだから、命の使い方じゃないですけども、キャリアだと思っています。そうすると、そのときに必要なのは、自分のことだけではなくて自分が社会とどう関わっているのかという視点なので、自分が障がいを持っている持っていないに関わらず、持っていたら持っていたで、それを解決しなければならないでしょうし、自分がそうではないと感じていたとしても、そういう人たちと一緒に学ぶことによって、視野を広げる必要があると思いますので、自分のキャリアを考えるときには、両方の部署が一緒になる必要があると思っています。
Q ヒューマンエンパワーメント推進局で、専任の教員は先生だけだと伺っていますが、現在取り組まれていることを少し教えていただけますか。
私が持っている授業がいくつかあるのですが、なるべく障害がいとか LGBTQ などを身近に感じてもらえるように取り組んでいます。例えば昨年オンラインで、御茶ノ水女子大学と ICU と筑波大学の学生が一緒に勉強するという機会があったのですが、その時は授業のゲストとしてデフサッカー、聴覚障害者サッカーの日本代表である筑波大学の卒業生に、ゲストとして参加していただきました。
Q 筑波大学では毎月1回、定例の記者会見を行っていますが、この4月の記者会見では、筑波大学の後期博士課程の3分の1を超える学生が経済的支援を受けられることになった発表がありました。ヒューマンエンパワーメント推進局の成果の一つというわけですが、そこに関して伺えますか。
筑波大学の博士後期課程の学生とおよそ2600人ぐらいなのですが、そのうち1150人は国費留学生や社会人学生ということで経済的な問題はありません。実際に経済的に困っているのは残りの1450人ぐらいだと考えた場合、これまでは学振、日本学術振興会からの経済的支援程度しかありませんでしたが、3~4年前にJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)が大型プロジェクトを立ち上げました。それが、先日の発表したSPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)というものです。筑波大学のSPRINGは、昨年までで444名だったんですが、それが今年度は565に増えました。さらに言うと、今年度始まるBOOST(国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業)というものがあって、そちらはAI人材に特化したものなのですけども、それも同じJSTのものです。これは50人ぐらいだったと思いますけれども、そうすると全体で600人。ですので、元々ある学振も含めると対象となる学生の3人に1人以上に経済的な支援ができます、という話が先日の発表になります。
Q このことはあまり知られてなかったように感じますが、やはり後期博士課程で学ぶ人を後押ししようということですよね。ドクターのキャリアパス、ポストドクターの就職が非常に難しいということで、最近はドクターを選択しないという動きもあると見聞きしたりもしますが、現在の博士のキャリアパスはどのような状況なのでしょうか。
分野によってばらつきが大きいですね。それこそAI 人材とかIT 系は引く手あまたで、IT 系の先生方のところには、いろんな企業から日夜と問わずの問い合わせというか、誰か学生を紹介してくれませんか、みたいな状況です。
一方、一番厳しいのは人文社会系ですね。そちらはなかなか先が見えないというか。そういうこともあって、博士のキャリアパスのときには、人文社会系の学生が考えるヒントになるようにと思っています。少し前には、外務省国際機関人事センター(正確な名称は?)の方にお話をしていただいた、ということもありました。
筑波大学の博士後期課程の学生とおよそ2600人ぐらいなのですが、そのうち1150人は国費留学生や社会人学生ということで経済的な問題はありません。実際に経済的に困っているのは残りの1450人ぐらいだと考えた場合、これまでは学振、日本学術振興会からの経済的支援程度しかありませんでしたが、3~4年前にJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)が大型プロジェクトを立ち上げました。
それが、先日の発表したSPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)というものです。筑波大学のSPRINGは、昨年までで444名だったんですが、それが今年度は565に増えました。さらに言うと、今年度始まるBOOST(国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業)というものがあって、そちらはAI人材に特化したものなのですけども、それも同じJSTのものです。これは50人ぐらいだったと思いますけれども、そうすると全体で600人。ですので、元々ある学振も含めると対象となる学生の3人に1人以上に経済的な支援ができます、という話が先日の発表になります。
Q ところで、先生のご研究の対象やご経歴をお聞かせいただいても宜しいでしょうか。
福嶋助教
(留学時代にお世話になった先生は95歳の今も現役教授)
はい。私の研究対象は、「外国人高度人材」となっています。それから、50代60代の生き方というところも研究してきました。経歴ということでいうと、留学をしたところから話したいと思います。私はアメリカの大学院に留学をしたのですが、そのときの研究テーマはEquality &Equity、公平と公正でした。
帰国後は企業の研究所に勤務いたしましたが、そこで2つの大きな仕事をしました。1つは大学のキャリア教育の仕事で、これは、その研究所が受託をしていたものなのですが、ある大学の授業を担当するということで、その担当者が私でした。授業の構成はもちろんですが、毎週ゲスト講師を呼んで提供するという授業だったので、誰をゲストに呼んでくるかといったところも含めて、全て私が担当していました。その授業には、10年近く関わっていました。
もう一つは、キャリアに関する社内調査をしたり、本を書いたりということでした。また、その頃は「企業と人材」という雑誌で、定年退職後の時間を計算すると7万時間くらいになるのですが、その時間をどう使うかという連載を持っていました。7万時間というのは、子供が小学校から大学までの学習時間と同じくらいかそれ以上ということで、相当な時間になります。この連載は、2012 年に「好きなことで70歳まで働こう! 」というタイトルで 書籍にもなっています。それから、研究所に勤めているときに、夜間の大学院の博士課程に通いました。
Q その「好きなことで70歳まで働こう! 」というご本ですが、どういった内容なのでしょうか。
当時は60歳定年だったと思いますが、60歳定年で何もすることがないというのは、せっかく体が元気なのに寂しいですよね。では、それから70歳までどうしましょうということで私は、縦軸を「新しいコミュニティ」と「これまでのコミュニティ」とし、横軸に「働く」と「楽しむ」を設定して、そこに現れる4象限について、各々を具体例から紹介するという内容でした。
Q 色々な事例を通じて、定年後のセカンドステージへのソフトランディングを探るというようなテーマなのですね。
そうです。
福嶋助教
福嶋助教
福嶋助教
産労総合研究所 企業と人材 2009 年9 月
Q 傾向として、この数年でこうした傾向が更に進んでいると思います。例えば先日の政府の骨太の方針にも少し入っていますが、リスキリングやレジリエンスといいますか、学び直しのような動きをどのようにお考えですか。
いろんな意味でいいと思います。一つはその個人ですね。以前は大学を卒業する22 歳ぐらいまでの教育で、後の人生を送っていたわけですけども、今は30 代40 代でもいいですし、それこそ定年退職した後でもいいので、もう一度何かを学んで新しいことを知ることによって、新しい自分になれるという流れがあって、これは楽しいだろうなだと思います。
それから大学としても、筑波大学だと18歳から27 ~ 28 歳までの学生を対象にするだけではなく、もっと広い方たちの学びの場になるということが良いだろうと。これは経営的にも良いでしょうし、大学としても豊かになるだろうと思います。色々な世代の人がいることが、それこそダイバーシティの観点からもいいだろうなと思います。
Q 一方で、60 歳なったら途端に使い物にならない、あるいは価値が下がるというような日本の昨今の扱いについては、例えばアメリカとか終身雇用ではないということもありますが、どのように思われますか。
おっしゃった通りで、60歳になったから価値がないのかっていうと、そうではないので難しいです。難しいというか、年齢差別と言いたいのに言えないところかなと思います。先ほどアメリカに留学したと話をしたが、留学する直前に(大学院に編入する前に?)アメリカで(まず)英語学校に通っていました。そこは大学付属の英語学校で、その英語学校がカンバセーションパートナーとしてネイティブの人とペアになって勉強をするというスタイルでした。その時の私の相手が、たまたまその大学の元学長で、当時も現役の教授をされている方でした。以来、その方とはずっと仲良くさせていただいていて、この3月にも会ってきたのですけど、93歳の今も現役で大学で教えていらっしゃるんですよ。こういう方に60 歳でお終いというのは、それこそ差別だと感じますね。
Q でも日本では、なかなかそこまでは...
はい。それは解雇規定が阻んでいるのだと思います。もちろん、その93歳が今でも働いているということは、一方で誰かの職を奪っているわけです。きっと。ですので、日本はそれじゃいけません、ということなのかもしれないですね。
Q お話を伺っているとやはり、世の中の流れとして学び直しという方向であって、その中でセカンドステージの考え方をどういうふうするのかが重要だ、ということかと思います。先生ご自身はこれから先、どうされるお考えですか。
私は、先ほどの93歳のお手本があるので、なんとして何かをしなければという気持ちがあります。現在のことで言いますと、昼間は筑波大学で働いていますが、その他に2つの非営利団体に関わっています。そのうちの1つは途上国の教育支援をするものです。こういうところ、定年があるわけではないです。
Q 専門性を生かしてやっておられるということですね。
はい。ここは世界的なネットワークなので、年に1回か2回、国際会議に出席したりもしています。それからもう一つは、東京郊外なのですが、理事としてインターナショナルな学生寮の運営に関わっています。
Q そういえば、多様なジェンダーやセクシュアリティの学生に寄り添う先生の姿勢が素晴らしいということで、ベストティーチャーにも選ばれたと伺いましたが。
これはもうすごく自慢です、私。
福嶋助教
福嶋助教
Q これは、どうするともらえるものなのでしょうか。
学生が、食堂などいろいろな場所で投票用紙を配ったらしいんです。その投票の結果、私の授業を取ったことあるか、何か私と接点があった学生の多くが投票してくれた、ということらしいです。
福嶋助教と卓球仲間
福嶋助教と仲間たちの卓球合宿
Q さて、仕事からは少し離れるのですが、先生は卓球がご趣味とか。先生の息抜きとか、そういうところも伺えますか。
息抜きですか。週1 築地、月1 卓球です。私は築地の近くに住んでいるのですが、築地を起点として歩ける範囲でしか引っ越したことがないと。
Q 築地の市場に行くということですか。
はい、買い物ですね。日常の買い物で、大体は市場で済ませています。肉も魚も。
高井 卓球は...
月1。(笑)
Q それと、キャンパスの緑がお好きだとか。
大好きです。まさか私がそんな好きだとは、自分でも思わなかったのですが。築地の近くということで、私は自然豊かではないところに住んでいて、ずっとその生活で満足していると思っていたのですが、筑波大学に毎朝通うようになって、バスから降りたときの緑の気持ちよさというのは、何とも言えないですね。
Q バスは、どちらで降りるのですか。
第一エリア前です。気持ち良いです。それと、もちろん緑が豊かっていうこともあるのですけども、私はヒューマンエンパワーメント推進局のキャリア支援チームで一緒に働いている人たちが大好きなんですね。人柄っていうこともそうでしょうけども、優秀な方ばかりで。
Q キャリア支援チームには、卒業生もたまに相談に来ることがあるそうですが、どういう相談なのでしょうか。
転職とか留学とか。今も働いているけど、これからどうしようかなみたいな。
Q 卒業生なわけですが、それも業務範囲になるのですか。
そうですよね。ここであまり宣伝してしまうと卒業生で一杯になってしまうので、受け付けますとまでは言いませんけれども。でもね、そうやって思い出してくれるということは、いいことだなと思います。やはりみなさん、大学時代が良かったからこそ、そうやって頼ってくれるわけですよね。それは感じます。
福嶋助教と卓球仲間
福嶋助教
福嶋助教と卓球仲間
福嶋助教
Q 最後になりますが、今後の展開などを伺えますか。
ニューマンエンパワーメント推進局としてではなく、私個人としてということで言うと、キャリア教育とアントレプレナーシップ教育を繋ぎたいと思っています。アントレプレナーシップ教育に関して、筑波大学では産学連携本国際産学連携本部という、私たちとは別の部署が行っています。そちらはそちらで良いと思うのですが、私の場合は入学時からのキャリア支援と言いますか、教育をしているので、そこをずっと辿っていった結果、そこの授業にも繋がるようにしたいと思っています。具体的には来年度1 科目を新しく開設する準備をしています。それは、先ほど申し上げた博士のキャリアパスという、博士課程の学生向けの授業なのですが、今は春にやっているものを、こう1 つ秋にも作りるということで、そちらは留学生も取りやすいように、英語の授業にしようと考えています。
アントレプレナーシップというと、何となく起業と思いがちですよね。もちろん、研究を突き進めた結果、自分がやりたいことを実現するために自分で起業するというのも良いのですが、様々な場所で働く上でアントレプレナーシップのマインドは、誰にとっても必要なものだと思っています。誰かと誰かを繋げて新しいプロジェクトをしようとか、あるいは新しい仕組みを考えようとか、そういったことは、別に会社勤めをしていても必要なことだと思うので、何かそこに繋がるような授業とか役割を果たしたいというのが、次の小さな小さな目標で、でも何とか実現させたいと思っています。
Q ありがとうございました。
福嶋助教
「好きなことで70歳まで働こう!」
(PHP研究所ウェブサイトより)
急速に少子高齢化が進む日本。今の40代、50代が定年を迎える頃には、「年金支給は70歳から」 となっている可能性が高い。 そうなると、「定年後は悠々自適」とはいかず、70歳まで働き続けなくてはいけなくなる。
どうせ働くなら、定年後こそは好きなことを仕事にしたいもの。
そこで本書では、定年後もいきいきと働く60歳以上の方々の実態を調査。
◎70歳から介護職員に転身した元商社マン
◎憧れのタクシー運転手へ転身した元エンジニア
◎退職前から続けていた講師業で売れっ子になった元メーカー社員
など、みな自分の好きなことを仕事にしており、元気いっぱいで70歳、75歳まで働く勢いである。
それらの人は何が違うのか。どんなサラリーマン時代を送ってきたのか。仕事はどこから取ってくるのか──。
彼らへの徹底取材から、定年以降もいきいきと働ける人々の特徴が明らかになった。
年金、健康、孤独、夫婦関係、生きがい……「定年後の不安」が一気に消え、今の会社生活にも希望が湧いてくる1冊!
文庫書き下ろし。
[聞き手 広報局次長 髙井孝彰]