卵からヒヨコまでのニワトリ胚発生をリアルタイムで可視化することに成功

代表者 : 田島 淳史  

ニワトリ受精卵を殻から取り出し、透明なフィルム製の人工培養容器内で培養することにより、産卵された状態から孵化に至るまでのニワトリ胚の全ての発生過程を、リアルタイムで観察できる無卵殻培養法を確立しました。
ニワトリ胚の発生過程を明らかにしようという試みの歴史は長く、古くは紀元前のアリストテレスにまで遡ります。しかしニワトリの卵は殻が不透明であるため、卵内で起こる胚の発生過程を観察するには殻を割らければなりませんでした。そのため、透明な人工培養容器の開発が試みられ、これまでに、予め孵卵器で3日間孵卵したニワトリ胚(3日胚)を殻から取り出し、透明なフィルム製の人工培養容器内でヒナを孵化させる無卵殻培養法が報告されました。しかしながら、この方法で産卵直後のニワトリ受精卵(0日胚)を培養しても、胚が正常に発生しませんでした。

本研究では、その原因を探り、培養開始3日目(3日胚)の時点で、胚盤葉(卵の発生時に局部的に細胞分裂が起こる部分)の表面を覆う膜(卵黄膜)が乾燥していることを見いだしました。そこで、卵黄膜の乾燥を防ぐため、7度に傾いた状態で天板が回転するロータリー・シェーカーを用いて、無卵殻培養容器を振り動かしながら培養したところ、胚盤葉を覆う膜の乾燥を防ぐことができ、3日胚の生存率が向上しました。さらに、これらの3日胚について、従来の無卵殻培養法で培養を継続した結果、胚発生が進行し、孵卵開始後21日目に複数の正常なヒナが誕生しました。

本研究の成果は、ニワトリ胚の発生に関する基礎研究にとどまらず、毒性試験や再生医療等への幅広い応用研究の基盤技術となることが期待されます。

PDF資料
プレスリリース
研究代表者
筑波大学生命環境系
田島 淳史 名誉教授
小原 勝也 農学学位プログラム 博士後期課程(研究当時、現:生命環境系客員研究員)

岡山理科大学獣医学部獣医学科
小原(逸見) 千寿香 講師(研究当時)
掲載論文
【題名】 Real-time visualisation of developing chick embryos cultured in transparent plastic films from the blastoderm stage until hatching.
(透明プラスチックフィルムを用いて培養した胚盤葉期から孵化までのニワトリ胚のリアルタイムな可視化) 【掲載誌】 Scientific Reports 【DOI】 10.1038/s41598-024-72004-y