コンピューターゲームで競い合うeスポーツは障害の有無や年齢を問わず楽しめるインクルーシブスポーツとして注目を集めている。ただ、長時間続けると、体は疲れを感じていなくても、脳の判断力が低下する認知疲労が生じてしまうことを、松井崇助教(体育系)らの研究チームが明らかにした。さらにeスポーツ中の瞳孔の大きさの変化が、自覚しにくい認知疲労を検知する指標となることを示した。松井助教らの研究で、柔道の稽古をすると、オキシトシンというホルモンの分泌が高まることが分かっている。出産や授乳、恋愛の際などに分泌される物質で、「愛情ホルモン」や「絆ホルモン」の別名がある。 松井助教らは、このオキシトシンがeスポーツを対面で実施する際にも分泌されることを突き止めた。肉体的な負荷が高いスポーツをするのが難しい高齢者などでも、eスポーツをすることで絆や共感性が生まれ、気持ちが前向きになることが期待できる。 一方、肉体的な疲労を感じにくい分、長時間プレーをしがちになりやすいことが、eスポーツの問題となっていた。 そこで松井助教らは、eスポーツを長時間プレーすると、体の疲労感が高まる前に認知疲労が生じるという仮説を立てた。そして、この仮説を検証するため、eスポーツにバーチャルサッカーを用いた実験を行った。 実験には、普段からバーチャルサッカーを楽しんでいる筑波大生14人(カジュアルプレーヤー)と、大会で勝つために毎日バーチャルサッカーをしているトップ選手ら19人(ハードコアプレーヤー)が参加した。 参加者には合計3時間プレーしてもらい、脳の活動の指標としてプレー中の瞳孔の大きさの変化を計測し続けた。また、プレー前と開始から1時間ごとに自らの疲労感を評価してもらい、併せて認知疲労をチェックするテストを実施した。 その結果、プレー経験に関係なく、参加者はプレー開始2時間後まで疲労を感じていなかった。一方、開始2時間後の時点で、二つのグループとも認知疲労を調べるテストの成績は低下した。さらに、瞳孔の大きさも縮小していた。 これらの結果は、体の疲労感が高まる前に認知疲労が生じるという仮説が正しく、瞳孔の縮小が認知疲労の検知に有効なことを示している。 eスポーツによる疲労防止に加え、パソコンに向かって仕事を続けるオフィスワークでの疲労防止などにも活用できる成果だ。 松井助教は今後、認知疲労を検知して自発的にプレーを中断できるシステムの開発にも取り組む予定で、「認知疲労の予防につながる運動や栄養の戦略を作り、eスポーツを通じたウェルビーイングの向上に寄与したい」と話している。(野田健祐=応用理工学類4年)
脳の疲労を瞳孔収縮から検知 eスポーツのやりすぎ防止へ
代表者 : 松井 崇