運動記憶の保持や忘却を計画する運動メタ学習の脳内メカニズムを解明

代表者 : 井澤 淳  

自分の身体運動を客観的に監視・制御する「メタ学習」の機能が、脳内の背側運動前野に備わっていることを発見しました。背側運動前野は、これまで、運動の計画に関わっていると考えられてきましたが、学習した運動記憶の保持や忘却に関する計画も担っていることが示唆されました。
卓越したアスリートを見ると、優れた運動スキルを獲得する能力は生まれ持った素質だと考えがちです。しかしながら、練習の繰り返しや環境に応じて運動学習スピードが上昇する事例は、多く報告されています。そのメカニズムとして、本研究グループはこれまでに、運動学習スピードは、運動記憶の学習率と忘却率を調整するメタ学習機構によって上昇することを見いだしました。しかしながら、脳のどの部位に、このメタ学習の機能が備わっているのかは未解明でした。

本研究では、脳内で意思決定などの認知課題におけるメタ学習を担っているとされる背外側前頭前野と、運動の計画に関わっていると考えられている背側運動前野のそれぞれについて、運動メタ学習タスク中に微弱な磁気刺激を与え、これらの部位の機能を調べました。その結果、メタ学習効果は、背外側前頭前野を刺激した場合には阻害されませんでしたが、背側運動前野を刺激した場合には抑制されました。ただし、このとき運動学習能力そのものは阻害されず、忘却率のメタ学習のみが主に抑制されたことが明らかになりました。これは、目的指向性の運動計画を担うと考えられてきた背側運動前野が、タスクや環境に応じて、どの程度、運動学習の記憶を保持、もしくは忘却するべきかを、長期的な目標に基づいて計画する機能を有していることを示しています。

このような運動前野のメタ学習機能は、世界で初めての発見であり、効率的にスポーツ技能の獲得能力を高めるための技術開発に役立つと期待されます。

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プレスリリース
研究代表者
筑波大学システム情報系
井澤 淳 准教授
掲載論文
【題名】 Meta-learning of human motor adaptation via the dorsal premotor cortex.
(背側運動前野による運動メタ学習の実現) 【掲載誌】 Proceedings of the National Academy of Sciences(米国科学アカデミー紀要) 【DOI】 10.1073/pnas.2417543121