慢性腎臓病において推定原尿中リン濃度と尿細管障害マーカー値は関連する

代表者 : 小﨑 恵生  

慢性腎臓病の早期段階の集団において、尿検査と血液検査項目から推定した原尿中リン濃度が高い人は、尿細管障害マーカーが高値を示すことを明らかにしました。このような関連性は、リンに着目した生活習慣改善を通じて、慢性腎臓病の発症・重症化予防につながると考えられます。
リンは生命に必須な栄養素の一つであり、カルシウムと共に骨を構成する成分です。マウスを使った近年の研究では、リンを多く含む食事を継続的に摂取すると、リンを尿として排泄する過程で腎臓の近位尿細管における原尿中リン濃度が上昇し、尿細管障害や腎機能低下を誘導することが示されています。しかしながら、ヒトにおいても同様の現象が認められるかは明らかではありませんでした。そこで、本研究では、推定原尿中リン濃度と尿細管障害マーカー値との関連性を調べました。

慢性腎臓病のステージがG2(軽度)~G4(重度)に該当する中高齢者218名を対象に、血液検査と尿検査を実施しました。血液および尿中のクレアチニン濃度と尿中リン濃度から、計算式を用いて原尿中リン濃度を推定しました。解析の結果、推定原尿中リン濃度は、慢性腎臓病のステージ進行とともに上昇する傾向を示したほか、リン排泄ホルモンである線維芽細胞増殖因子23の血中濃度や尿細管障害マーカーである尿中β2マイクログロブリン濃度の上昇と関連することが認められました。以上の結果は、マウスを対象にした知見の一部とも整合します。

日本における慢性腎臓病患者は約1450万人と推計されており、発症・重症化の予防策を確立することは重要な課題です。本研究成果は、リンに着目した生活習慣改善により、この課題に貢献すると期待されます。

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プレスリリース
研究代表者
筑波大学体育系
小﨑 恵生 助教
掲載論文
【題名】 Estimated Proximal Tubule Fluid Phosphate Concentration and Renal Tubular Damage Biomarkers in Early Stages of Chronic Kidney Disease.
(慢性腎臓病の早期段階における推定原尿中リン濃度と尿細管障害マーカー) 【掲載誌】 Journal of Renal Nutrition 【DOI】 10.1053/j.jrn.2024.06.009