ストレス時に呼吸運動の変化を引き起こす神経回路を解明

代表者 : 小金澤 禎史  

精神性ストレス応答の中核として知られる脳の外側手綱核は、ドーパミンなどの神経伝達物質を介してストレス時の行動変化や自律神経応答に関わっています。この領域がドーパミンを放出する神経細胞(ニューロン)を介して精神性ストレス時の呼吸運動の変化も担っていることを新たに見いだしました。
ヒトはストレスに対した時、すくんだり逃げたりするなど、その行動を変化させます。それと同時に体内では、呼吸回数や心拍数が増えるなど、さまざまな生理応答が引き起こされます。これは呼吸運動や循環系を調節する自律神経系がストレスに対して柔軟に変化するためで、こうした変化は外敵の出現などの脅威に対する速やかな行動を可能にし、生存に有利に働くものと考えられます。特に呼吸運動の調節は生命の維持に不可欠で、運動やストレスに応じて意識に関係なく調節されます。しかし、このようなストレス性の呼吸応答を生じる神経基盤の詳細は明らかになっていませんでした。

本研究では、精神性ストレスに対して興奮する神経細胞が存在する脳の外側手綱核という領域に注目しました。麻酔下のラットの外側手綱核を電気刺激により活性化させ、精神性ストレス応答を疑似的に引き起こすと、精神性ストレス時によく似た呼吸頻度の増加が誘発されました。また、外側手綱核の刺激によって生じるこのような呼吸運動の応答はドーパミン、セロトニンなどのモノアミン系神経伝達物質を介して制御されていることが分かりました。さらに、中脳に存在する腹側被蓋野のドーパミンニューロンが外側手綱核を起点とした精神性ストレス様呼吸応答を主に仲介している可能性が示されました。

ストレス性の呼吸応答がどのような機序で生起されるのか、その神経基盤を明らかにすることは過換気症候群などの疾患における呼吸調節異常の理解・治療につながる可能性があります。

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プレスリリース
研究代表者
筑波大学医学医療系
小金澤 禎史 准教授
水上 璃子 ニューロサイエンス学位プログラム(後期博士課程)3年次
掲載論文
【題名】 The lateral habenula regulates stress-related respiratory responses via the monoaminergic system.
(外側手綱核はモノアミン系を介してストレス様呼吸応答を制御する) 【掲載誌】 Pflügers Archiv – European Journal of Physiology 【DOI】 10.1007/s00424-024-03043-7