2020年4月に発生した、ウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)規制区域(放射能汚染地域)での大規模な森林火災が放射性物質の再分布に与える影響を、溶出試験と河川の長期観測データ解析から評価しました。その結果、火災は河川を介した137Csと90Srの再拡散を促進することが分かりました。
放射能汚染地域における森林火災は、放射性物質の再拡散や住民の被ばくといった重大な懸念を引き起こします。本研究では、2020年4月にウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)規制区域内で発生した大規模な森林火災が、河川中の137Cs(セシウム137)および90Sr(ストロンチウム90)の再拡散に与えた影響を調査しました。火災後に現地で採取された炭化残留物や土壌に含まれる137Csと90Srの存在画分を特定し、河川中の137Csおよび90Sr濃度の長期的なモニタリングデータを解析しました。
解析の結果、炭化残留物や土壌に含まれる137Csおよび90Srの存在量は、チョルノービリ原子力発電所からの距離が増すにつれて減少しており、これはチョルノービリ原発事故後の初期の沈着パターンと一致しました。また溶出試験により、炭化残留物に含まれる水溶性の137Csと90Srの存在量は、土壌のそれよりも有意に高くなっており、火災は河川を介して137Csと90Srの再拡散を促進することが分かりました。火災の前後で、チョルノービリの河川流域における137Csの濃度に顕著な増加は見られませんでしたが、90Sr濃度は有意に増加してウクライナの飲料水基準(2 Bq/L)を超える値を示しており、これは、炭化残留物や土壌から溶出した90Srが河川に流入したことが原因だと考えられます。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学生命環境系
五十嵐 康記 准教授
福島大学環境放射能研究所
アレクセイ コノプリョフ 特任教授
掲載論文
【題名】 Effects of Large-Scale Wildfires on the Redistribution of Radionuclides in the Chornobyl River System
(大規模森林火災がチョルノービリ河川システムの放射性物質再拡散に与える影響) 【掲載誌】 Environmental Science & Technology 【DOI】 10.1021/acs.est.4c07019