10匹の鮎の群れについて、情報理論を用いて、臨界状態(環境に対して柔軟に対応できる「柔らかいシステム」)の様子を調べたところ、周りの刺激に過剰に反応する個体群と、反応の鈍い個体群の役割分担が、理論的な予測よりも容易に、群れ全体としての臨界状態をもたらしていることが分かりました。
理論生物学では、協調的な行動を行う鳥や魚の群れにおいて、柔軟で素早い意思決定を行うためには、臨界状態(環境に対して柔軟に対応できる「柔らかいシステム」)にあることが重要であるとされています。しかし、このような臨界性が動物の群れで比較的容易に達成される理由はよく分かっていませんでした。
本研究では、10匹の鮎の群れについて、情報理論を用いて、臨界状態がどのように成立しているのかを詳細に調べました。臨界の程度を数値化し、全ての部分集合にその数値を割り当てたところ、臨界の程度の分布は群れの中で不均一であることが分かりました。一方、この分布を平均的に見ると、群れ全体としての臨界状態が確認されました。これは、群れの意思決定を行う「柔らかいシステム」は、周りの刺激に過剰に反応する個体群と、反応の鈍い個体群の役割分担から成り立っていることを示唆しており、このことが、理論的な予測よりもずっと容易に群れ全体の臨界状態をもたらしていると考えられます。このような情報構造は、理論的に構築した複数のモデルでは観察されませんでした。
さらに、反応が鈍い個体群が、群れ全体の情報伝達におけるハブとして機能していることも発見しました。これにより、群れ全体の選択肢がある程度絞られ、過剰に反応する個体群の意思決定がスムーズに統合されます。
本研究結果は、動物の群れにおける臨界状態は不均一な構造から成り立っており、全体の意思決定を最適化するためには個体間の役割分担が重要であることを示しています。
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プレスリリース
研究代表者
筑波大学システム情報系
新里 高行 助教
掲載論文
【題名】 Information structure of heterogeneous criticality in a fish school
(魚の群れにおける不均質な臨界性の情報構造) 【掲載誌】 Scientific Reports 【DOI】 10.1038/s41598-024-79232-2